イケてる航空総合研究所

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737MAXの墜落事故は、古過ぎる737の設計上の限界を露呈した事故だと僕は思う。

737MAX墜落事故でボ社が謝罪

連日報道されている737MAXの事故。インドネシアのライオンエアが2018年10月に、そしてエチオピア航空が2019年3月に、それぞれ737MAX8という飛行機を堕としました。

2つの事故は共通の原因であり、MCAS(Maneuvering Characteristics Augmentation System)と呼ばれる縦(上下方向)の自動制御機能が事故に深く関わっていました。


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(737MAX8/Boeing HPより)

4月5日、ついにボーイングはシステムに問題があったことを認め謝罪をしました。

ボーイングはMCASと呼ばれるソフトウェアを修正し運航再開に向けて努力をしています。つまりMCASと呼ばれるソフトウェアが問題であり、それを修正しさえすれば、問題は解決するということです。これで737MAXは安全になります。

と言っても全く問題はないんですが、この事故をMCASだけのせいにしてしまうのは少々近視眼的でした、もう少しこの事故を引いて見て見ると少し違った景色が見えてきます。僕は、737MAX問題には「737としての限界」が潜んでいると考えています。

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そもそもMCASとは何なのか

僕は連日、737MAXに関するニュース、記事などを読んでいますが、最近では「MCAS=失速防止装置」という構図が出来上がっています。それは間違いです。いつかのNHKのニュースでも、MCASは従来型の737と操縦感覚を同じにするために追加された機能という言い方をされていましたが、厳密に言うとそれも間違っています。(結果的にそうなったという説明ならば正しいです。)

737は歴史的に非常に古く、車で言うモデルチェンジを繰り返して最新モデルのMAXまで進化してきた飛行機です。一世代前の600~900型までがNG(Next Generation)、二世代前の300~500型がClassic、そして初期型の100~200型がOriginalと呼ばれ、MAXは第4世代の737です。

第3世代のNGから第4世代MAXへと進化させる際、ボーイングは何をしたか。そこが今回の事故の焦点です。ボーイングは燃費の良い口径の大きなエンジンを取り付けるために、エンジンをさらに前に、そして上に取り付けました。その改修により飛行機の性能は上がりましたが、逆に縦の静安定性を損ねたのです。

縦の静安定性とは、簡単に言えば「機首が上がった際に、自然と機首を下げるような力が働く」こと。そもそも力学的に静安定を持つとは「平衡点(安定な状態)からずれた時に、それを元に戻す方向に力が働く」という意味です。

通常の飛行機では機首が上がると勝手に機首を下げるような力が働き、放っておけば元の状態に戻してくれます。しかし737MAXでは、前にせり出したエンジンナセルそのものが、わずかな揚力を発生させてしまい、機首が上がるとさらに機首を上げてしまうような特性を持ってしまったのです。

つまり縦の静安定が不安定方向に行ってしまっているんですね。(エンジンは重心よりも前にあるため、エンジンナセルに揚力が発生すると頭上げが強まり、どんどん機首を上げてしまう。)

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それを補うのがMCASです。この機能を付けないことには米国連邦航空規則(FAR)の基準を満たさず、飛行機として世に送り出すことができませんでした。数々のニュースではMCASは単に「失速防止装置」とだけ言われているものがありますが、元々は縦の静安定性を補うために付けざるを得なかった「安定性増強装置」なんです。事故ではMCASがたまたま失速防止装置的に機能しているというだけです。

MCASは水平尾翼を自動的に動かして縦(上下方向)のバランスを取ります。意図せずに水平尾翼が動いてしまうのがMCASの特徴であり、一連の事故は水平尾翼が暴走して、機体の頭下げ姿勢をパイロットが修正できずに事故に発展しました。

水平尾翼の機能については以下の記事が参考になると思います。

flyfromrjgg.hatenablog.com


若干わき道に逸れますが、同じような例はMD-11という旅客機にも見られます。元々MD-11は縦の静安定性が低い旅客機だと言われており、LSAS(Longitudinal Stability Augmentation System)というシステムが付けられています。それでも縦の操縦性が悪く、パイロットが意図せず上下方向の振動を増幅させるような操縦をしてしまう事故(PIOと呼ぶ)が多発しています。

縦の静安定に問題のある飛行機は事故が多い傾向にあり、737MAXの事故はMD-11の事故のデジャブのような気がしてなりません。

尚、ここまでの737MAXの技術的な内容は以下のサイトを参考にしております。

www.b737.org.uk

もし間違って解釈しているところがあれば是非是非指摘してくださいね。

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737はとてもクラシカルな機体

世の中ではMCASが事故の原因と言われていますが、この事故の根本的な原因はMCASではなく、そもそも737という飛行機をモデルチェンジし続けたことにあると僕は考えています。

737の設計はなんと1960年代にまで遡り、驚くことに50年~60年もの間、737という飛行機は基本的に変わっていません。主な変更は翼型の変更とエンジンの換装、コックピットの近代化くらいでしょう。737MAXはこの期に及んでフライバイワイヤ機でもありません。(対抗馬のA320は登場時からフライバイワイヤです。)

元々737は近距離用で、設備の整っていない空港での使い勝手を考慮し、車高を低くして、自蔵のタラップを持ち、地上設備なしでの運用を可能にしています。

その車高の低さがエンジンの大型化を難しくさせていました。地上とのクリアランスが少ないため、口径の大きなエンジンを取り付けるにはかなりの工夫が必要だったのです。


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こちらが737の初期型です。エンジンが細く、当時はこのくらいの車高で充分でした。(Museum Of Flightにて)


一方で、

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737MAXの一世代前のモデルである737NGがこちらです。車高が低いため、エンジンを下広のおにぎり型にして何とか地上とのクリアランスを保っています。

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一方、ボーイングのライバルであるエアバスは1990年代、737に対抗すべくA320を開発しました。A320では車高をある程度高くして、口径の大きなエンジンの搭載を可能にしています。


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初期型のA320のエンジンを取り換えたのが、上のA320neoというリ・エンジン型であり、A320neoでは軽々と大口径のエンジンを搭載できています。(基本的に大口径のエンジンほど燃費がよく、A320neoと737MAXに搭載されているエンジンは基本的に同じシリーズのものですが、A320neoのエンジンの方が直径が大きいです。)

MAXは設計の限界を超えていた

そして再び737に戻ると、737は車高が低いがゆえ、A320neoに対抗するための措置として、エンジンを前にせり出し翼とほぼ同じ高さに取り付けるという「かなりの無理」をしています。


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そのため飛行特性が従来型の737と変わってしまい、従来型の737と同じ操縦感覚にするために、MCASという安定性の増強装置を付けざるを得なくなってしまいました。さらに737MAXでは、地上とのクリアランスを確保するため、前脚の長さを少し長くしています。それくらい苦しい設計をしています。

誤解を恐れずに言えば、737MAXは737としての限界を超えた設計をしているのです。

モデルチェンジももう限界では?

僕にはどうしてもそう思えてならなりません。

後発のA320の方が設計として近代的であり、エンジン換装も容易なため、本来であればボーイングはA320neoに対応するための新型機を送り出すべきだったのかも知れません。しかし新型機開発には莫大な資金が掛かります。そんなリスクを取るなら多少無理をしてでも改造してしまった方がうんと安上がりだったのです。

また、航空会社側としても従来機の派生型の方が、訓練コストや整備コストを削減できます。何せ737シリーズは全世代で1万機以上が生産されたベストセラー機ですので、航空会社としてもモデルチェンジの方が都合がよいのです。メーカーとエアラインの利害が一致し、ボーイングは737に代わる新型機を開発するのではなく、ベストセラー機の呪縛に囚われMAXという派生型を作るに至りました。

なんて想像してしまうのは少々無理があるかも知れませんが、やはり僕は「737はもう限界なのだ」と思わざるを得まえせん。

きっと次の世代の737はないでしょうね。もう737はこれ以上モデルチェンジはできないはずです。好調な売れ行きのA320neoシリーズを尻目に、5~10年後くらいには後継機の開発に乗り出さざるを得ないボーイングの苦悩が目に浮かんできます。

通常、航空事故が起こると、ニュースが数日流れるだけで終わってしまうのが、一連の737MAXの事故では未だにそれなりの頻度で報道されます。それはこの問題に対して関心を持つ人が多いということです。

ただ、自動車の自動運転の黎明期という時代背景もあってか、人間と機械のどちらが優先されるべきか、というようなところばかりに焦点が行ってしまい、737の設計上の限界について触れているニュースは僕が見た限りではありません。今回はそんな問題提起をさせてもらうべく書きました。

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