イケてる航空総合研究所

ビジネスクラス搭乗記、弾丸旅行のノウハウ、マイルの使い方、貯め方、航空事故の真相などなど。

夜霧の仁川へ恐怖の雲中アプローチ。視界不良のときは迷わずILSアプローチで自動着陸だ!

仁川空港は怖いくらいの霧の中

香港発エチオピア航空の仁川到着は20時50分。30分くらい早着したんですが、着陸直前まで地面が全く見えずメチャクチャ不安でした。どんどん高度が下がっているのがモニターの高度計でわかるんですが、787独特のパターンで光るアンチコリジョンライト(衝突防止灯)が雲の中を不気味照らすだけで、地表が一向に見えないんです。「このまま海面にでも墜落するんじゃないか?」とかなり不安を抱きながらのアプローチでした。

見えた!と思ったらそこは滑走路でした。すぐにドスンと接地。何も見えないに等しい視程だったと思います。


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着陸してもこんな感じで遠くは全く見えませんでした。これはまだ見える方で、着陸地点はもっとすごい霧でした。

さて、飛行機は霧などで前も下も見えないときに、どのように着陸するのでしょうか?

ILSアプローチだけが頼り

仁川空港は海が近く霧が出やすいという特性上、視程が十分になくてもちゃんと着陸できる装置が備え付けられています。専門的には「ILSアプローチ」と呼ばれる「精密進入」のための装置のことです。航空玄人の方は「そんなこと知っとるわい!」なんですが、今回は初心者の方のために、わかり易く解説しますね。

ILSアプローチができる滑走路では、地上から滑走路に対する横のズレの情報と、進入角度の情報を電波で飛ばしていまして、飛行機はその電波を頼りに、自分の横のズレと進入角度のズレ(縦のズレ)を確認しながら降りてきます。

進入コースとの横ズレ、縦ズレがわかるということは、パイロットが手動で操縦、またはオートパイロット(自動操縦)が自動でズレを修正してズレが0になるように制御して降りて来れば、前が全く見えなくても滑走路にたどり着けるってことですよね。


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(これが横のズレ情報を与えるローカライザアンテナ)


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(これが進入角度のズレ情報を与えるグライドパスアンテナ)

この仕組みは何十年も前から実用化されていまして、未だに事実上唯一の精密進入の方式です。(もう一つ精密進入であるGCAは、管制官が誘導する方法のため自動着陸が出来ませんし、主に軍用空港に設置されている方法のため広く行われている方式とは言い難いです。)

日本でも世界でもILSアプローチは非常に普及しており、悪天候時の安全な着陸方法として確立されています。最近ではGPS(GNSS)を使用したアプローチも多くなっていますが、自由な経路を採れるというメリットはあるものの、精度の高い進入方式とは言えない側面があります。悪天候時には伝統的にILSアプローチだけが頼りなのです。

ILSアプローチならば自動着陸が可能

ILSアプローチにはカテゴリーという種類があり、数字が大きいほど、悪条件でも着陸できるようになっています。カテゴリーIからIIIまであります(1~3と言う意味)。IIIにはa、b、cとさらに3つに細分化されており、こちらもアルファベット順に悪条件の度合いが上がっています。(以降、厳密さを欠ける説明があるかも知れませんが、理解を優先するためあえてそうしています。)

簡単に言うと、カテゴリーの違いは決心高度の違い。すなわち、何フィートまで降りて滑走路が見えなければ、着陸をやり直すという高度の違いです。決心高度が低ければ低いほど、視程が悪くても着陸ができるということです。CATIIIには決心高度がない場合があります。

ILSアプローチではカテゴリーに関係なく自動着陸ができます。ただし、カテゴリーI、IIでは、ある高度(決心高度DA、決心高DH)まで降りた時に滑走路が見えないと着陸できないことになっているため、無条件に自動着陸は出来ません。カテゴリーIIIで決心高がない(着陸を決心する高度がない)場合は、接地するまで滑走路が見えなくても自動着陸をすることができるんです。仁川はカテゴリーIII運用ができる空港です。

空港、機体、パイロットの3条件が必要

この自動着陸、どんな空港でもできるというわけではありません。当たり前ですが空港側のILSの設備が必要です。世の中にはCATIの空港もあれば、CATIIの空港もあります。もちろんCATIIIの空港もあります。空港によって設備のグレードが異なるため、降りられる気象条件が異なります。

そして機体側も自動着陸を可能とする装置の精度や冗長性(バックアップシステム)が確保されていることが必要になります。最近では飛行機側が劣っていることはあまりなく、CATIII対応の機体がほとんどです。

そして最後はパイロットの資格が必要です。異常が発生しなければ、空港側と機体側さえちゃんと基準を満たしていれば自動着陸はできるのですが、着陸直前、万が一機体に異常が発生した場合、パイロットが手動で着陸、または着陸やり直しをする必要がありますよね。

なので、パイロットにも技量が求められます。カテゴリーI、II、IIIと進むにつれて、低い高度での操作が必要となりますので、パイロットにも資格を付与していますなわけです。CATIIの資格しか持たないパイロットは、CATIII運用の気象条件では運航できません。

この三拍子揃って、初めて定められたカテゴリーの自動着陸を行うことができるようになるんですね。

もう一度順番に言うと、まずに空港。インフラがなければ自動着陸は無理です。インフラのレベル(CATI、II、III)もあります。そして機体システム最後がパイロットです。

意外にパイロットの資格がネックだったりします。ときどきありますよね?前の便は着陸できたのに次の便は着陸できないことって。あれはILSの資格がモノを言っている場合があります。それだけではなく、横風の規定とかエアラインごとの運航基準の差により、着陸できるかどうかが決まる場合もありますので一概には言えませんが、A社は欠航したけど、B社は出発したとか、そういう一見不思議な話の中には、パイロットの資格が隠れていることがあるのです。

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フライトシミュレータでやってみた

20年くらい前の話になるんですけど、Microsoftフライトシミュレータで視程をほぼゼロにしてILSアプローチの練習をしたことがあります。コンピュータ上の話ですので、かなり無理をして手動でのアプローチを練習してみました。何が一番難しいかって、最後にランウェイが見えた時に機首方位と滑走路の方位が微妙にずれていることなんですよ。

横のズレを徐々に修正しつつ滑走路に近づいて行くと、機種が滑走路に正対しません。すなわち滑走路に徐々に近づいて行っているため、滑走路に対して機首が若干の角度を持ってしまっているんですよね。

すると最後に「うげっ!」ってなって急激に機首を回すことになってしまうんです。実はそんなにズレていないはずなので接地してからラダーで修正すればいいんですけど、ちょっと焦ってしまってグイっとやってしまうんですよね。

そんな経験もあってか、僕は「悪天候時は自動着陸が絶対に安全」だと信じています。ILSアプローチの手動操縦と言っても、計器盤に表示される十字を真ん中に合わせるだけの簡単な操縦なんですが、最後の最後に少しでもずれていると焦ってしまって過度な操縦になりがちです。なので、視界が本当に悪い時は無理をせずに自動着陸にした方が絶対にいいです。素人の僕だからかも知れませんが、たまには腕を過信せずコンピュータに任せる方がいい時もあります。

実際のところパイロット達は好天時にはILSアプローチで降りていると言いつつ手動で操縦していたりするらしいです。パイロットは常に自分の操縦で降りたいらしいのです。それは自身の技量維持のためにも大切なことですよね。しかし今回の仁川へのアプローチのように本当に視程が悪い時には、恐らく自動着陸を使っていると思います。何せ手動で操縦するには危険極まりない天候ですからね。

スポットまで何も見えない地上走行

アプローチ中は暗すぎて写真が撮れませんでした。地上でもブレてしまうのでなかなか写真が撮れず。


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ぼんやりと光るところがターミナルビルだろうな?と思い、スポットに近づくとやっと飛行機らしい機影が見えました。


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ここまで来ると737だと判断できるのですが、航空会社まではわかりません。


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結局チェジュエアでした。

自動着陸で安全性と定時運航性を確保する

こんなに濃い霧の空港に降りるのは初めてでしたが、ILSアプローチの(恐らく)自動着陸のおかげで何の困難もなく着陸できたわけです。アプローチ中は非常に不安でしたが、どんなに前が見えなくてもちゃんと着陸できる自動着陸を信じていました。結果、見事に787は着陸をやってのけてくれ、僕はますます飛行機の安全性に自信を深めてしまったというわけです。

さすがに僕でも高度が下がりまくっているのに、地面が見えないと不安になりますよ。このまま海面に激突しちゃうんじゃないかとか、最後の接地で失敗するんじゃないかって。航空事故は「悪天候の夜間」という条件で発生することが多いですから、今回もそれに漏れず、事故っちゃうんじゃないかってヒヤヒヤしました。

この自動着陸は安全性という観点が最も重要ですが、飛行機の定時運航性を上げるという観点からも一役買っています。ILSの電波に乗って自動着陸をやってくれるおかげで、霧で覆われた空港にもちゃんと定刻に到着できるわけです。

自動車の自動運転が云々と言われている時代ですが、飛行機は何十年も前から着陸まで自動でできるように設計されています(未だに離陸だけは自動ではできない)。飛行機のテクノロジーってすごいですねぇ。


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