イケてる航空総合研究所

ビジネスクラス搭乗記、弾丸旅行のノウハウ、マイルの使い方、貯め方、航空事故の真相などなど。

よくわかる飛行機の重心の話【ガラガラのトリプルセブンで乗客が一斉に席を移動すると墜落するかも】

修学旅行が突然キャンセルになった機内

随分前の話になりますが、羽田発福岡行きですごい便に当たりました。なんと修学旅行がキャンセルになったらしく、ほとんど乗客がいないトリプルセブンに乗ることになったのです


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これ、一番先に搭乗して撮影した写真じゃないですよ。飛行中の写真ですよ。こんなにガラガラなトリプルセブン、信じられますか?

僕は、この後の便に搭乗しようとしていました。しかしラウンジに行くためにこの便の搭乗ゲートの前を通ったところ、「修学旅行のお客様のキャンセルが発生したため…、空席待ちのお客様は…、」と言った放送が聞こえてきたんです。

出発時刻間際だったので「乗れるかな?」と一瞬不安に思ったのですが、ダメ元で「乗れますか?」とチケットを見せたところ、「乗れる」とのことだったので、前便変更の手続きをしてもらいました。そして乗ったところ、想像を絶する光景を目にしたのです。

もう一度。

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信じられますか?この光景。

これが飛行中のトリプルセブンの機内ですよ。何だか1機丸ごと貸切っているような気分ですね。

実は前方ゾーンは満席だった

ガラガラの光景も信じられないんですが、もっと信じられないのが前方席の光景。


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機内真ん中以降はガラガラなのに、前方のゾーンは満席なんです。3-4-3の座席がほとんどびっしり埋まっています。カーテンの向こう側なので確認できませんが、路線の特性上、プレミアムクラスも恐らく満席だと思います。


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最初の2枚で紹介した真ん中のコンパートメントは前方左側に数人の頭が見えますね。


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一番後ろのコンパートメントは数人ではなく二十数人の乗客がいました。空席待ちをしていた人は皆、このコンパートメントに割り当てられたんでしょう。

一番前のコンパートメントの乗客をもっと分散させればいいのにと思いますが、一旦決めてしまった席を変えるのは、乗客側から「勝手に席を変えるな」とクレームがつく恐れがあるのでなかなか変えることができません。中央席の乗客くらい、どこか違う場所の通路側に移してあげればよいと思うんですが、一旦決めた座席を勝手に移動させる義務はANA側にはないのです。

こういった場合、4人掛けの中央席の人は自主的に座席を移るしかないのですが、機内でこんなアナウンスが入りました。「飛行機の重心の関係上、お座席のご移動はご遠慮下さい。」と。そんな怖いことを言われてしまったら勝手に席を移るなんてできませんよね。

こうして前方はギュウギュウなのに、後方はガラガラといういびつなキャビンができあがったのです。

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飛行機の重心の許容範囲

機内で「座席を移ったらダメ」という主旨のアナウンスがあったわけですが、実際どうなんでしょうね?仮に座席を移ったとしたら重心が移動してヤバいことになるんでしょうか?

飛行機の重心位置は非常に限られています。絶妙なバランスの上に成り立っているんです。製造メーカーでは、乗客や貨物を含む飛行機全体の重心を限られた範囲に収めるべく、様々な搭載パターンを考え、実際の運航に支障がないかを検討しています。

ちょっと専門的な話になりますが、飛行機の重心というものは、大体の相場として、平均空力翼弦長(MAC:Mean Aerodynamic Cord)の15~45%くらい(半分よりも少し前くらい)の位置に収めることになっています。

平均空力翼弦長というのは、英語でMAC(Mean Aerodynamic Cord)と言い、日本語では「マック」なんて呼びます。翼って先細りになっていますよね。根元と端で長さ(コード長)が違うじゃないですか。それを平均化して代表的な翼のコード長として使おうってのがMACの考え方です。(少し難しいので理解できなくても構いませんよ)

重心はMACの中の数十パーセントの範囲に収めないといけないという決まりになっています。いや、決まりはないんですが、どの飛行機もそれくらいの範囲に収めないと飛べないんですよ。


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図で表すとこんな感じ。重心の許容範囲ってこんなに狭いんです。あんなに長いトリプルセブンですら2メートルくらいしか重心の許容範囲がないんです。宙に浮く乗り物の重心は非常にシビアなんですね。

重心に幅があるのは水平尾翼のおかげ

重心範囲の設定に大きく関係しているのが水平尾翼です。水平尾翼があるおかげで重心に幅を持たせられると言っても過言ではありません。もし水平尾翼がなかったら重心はどんな積み方をしても一か所である必要があります。それは絶対に無理です。

ここで。水平尾翼の役割って何だか知っていますか?そうです、縦の釣り合いを取るためです。力の釣り合いだけでなく、モーメントの釣り合いも取ります。


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重心が揚力中心よりも前にあると機首が下がろうとするので、後ろから下に引っ張って、モーメントの釣り合いを取ります。


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逆に重心が揚力中心よりも後ろにあり、頭が上がろうとすれば後ろから上に引っ張ります。

そういう役割を果たしているのが水平尾翼なんですね。たまに「水平尾翼=後ろの重さを支える翼」という理解をしている方がいますが、それは大きな間違いです。水平尾翼は下向きの揚力も出しますので、重さを支えるどころか、余計に下に引っ張って重くしていることだってあります。

水平尾翼が発生するモーメントは「重心から水平尾翼までの距離(アーム長)×水平尾翼の揚力」で表すことができます。重心が決まればアーム長が決まりますので、水平尾翼の揚力がモーメントの大きさを決めることになります。水平尾翼の取付角を変えることで揚力の大きさをコントロールし、モーメントを釣り合わせているのです。(専門的になりますが、正確には取付角が変わるのは、水平尾翼のエレベータを除いた水平安定板です。)

こんな風に水平尾翼のおかげで重心がある程度前後してもバランスが取れるようになっているのです。

重心位置は主脚よりも前に

もう一つ重要な点を言っておくと、重心は主脚よりも前に置かなければいけません。主脚よりも後ろに置くと地上で尻もちをついてしまうからです。主脚は主翼の後縁辺りに付きますので、とにかく重心は翼付近の狭いエリアに置かないといけないんですね。

人間1人でどれだけ重心が動くのか

ここで人間1人がどれだけ重心に影響を与えるか計算をしてみたいと思います。ボーイング777-200で人間1人が重心位置から一番後ろの席まで移動した場合、重心がどれだけ移動するかを計算します。

  • 777-200の運用自重(OEW):135,850kg (約136トン)
  • 機体重量=運用自重+乗客1人 (燃料は0と仮定)
  • 乗客1人の体重:70kg
  • 乗客1人の移動距離:重心位置から30m後ろへ

この条件で計算をすると、乗客1人で1.5㎝重心が移動するという計算結果が得られました。たった1人なのに結構移動しますね。100人が(重心位置から一番後ろまで)移動したら1.5mも動きますので恐らく重心の許容範囲を逸脱して墜落します。ただし、燃料が入っていたり、もう少したくさん乗客が乗っていると、機体重量が重くなるため、1人当たりの重心移動量は小さくなります。(つまり、計算を行ったのは最もシビアな条件)

さすがに一度に100人も移動することはないと思いますが、数十人が移動すると、重心が何十㎝と動きますので、クルーは念のため「お座席の移動はご遠慮下さい」と僕らに促したのです。たまに僕も上空で座席を移動することがあるのですが、トリプルセブンの真ん中辺から一番後ろまで移動すると重心が1.5㎝も動くことを頭に入れておきたいと思います。

恐らく普通の乗り方をしていれば重心の移動なんて気にしなくてもいいと思いますが、あの長いトリプルセブンでさえ重心の許容範囲が2mくらいであることを知ると、ちょっとだけ怖くなりますね。特にガラガラの状態での大勢の乗客の移動は、重心に大きな影響を与えますので注意が必要です。

皆様も不意に重心が移動して墜落してしまわぬようお気を付け下さい(笑)。


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