イケてる航空総合研究所

飛行機の乗り方、航空旅行の楽しみ方、マイルの使い方、貯め方、航空事故の真相などなど。

JAL機の緊急着陸を見て「飛行機ってホント安全だな~」と改めて思った件について

恐怖をあおるだけのマスコミ報道

9月5日(火)、11時頃、羽田発JAL6便ニューヨーク行きの777-300ER(JA743J)が、離陸直後にエンジンから出火し羽田空港に緊急着陸しました。機は一旦太平洋上に出て燃料の投棄を行い、羽田空港に戻りました。

たかがエンジントラブルで何でそんなに騒ぐのかな?という印象を持った一連の報道でした。

先日の8月12日、御巣鷹山の日に偶然にも起こった、ANA機の与圧トラブルの余韻が抜けぬうちに、「ほらまた飛行機事故だ!」「今度は御巣鷹山で安全を誓ったばかりのJALだ!」と無理無理騒ぎ立てている気がします。

基本的にマスコミの報道はエンジンから火を噴くシーン(と言っても間欠的にですよ)や、素人乗客のインタビューに終始して、恐怖感をあおるだけの報道にしか見えません。

僕が見るに今回の事故は、飛行機が「最も危険とされる重々量の双発機が、最も危険なタイミングでエンジン故障を起こしても安全に戻って来られる」ということを証明した賞賛すべき事案だと思います。

ここで、航空事故の専門家「いけてるこうくう」が、今回の事故のどこを見れば「飛行機が安全な乗り物である」ことがわかるのか、ちょっとだけ語ってみたいと思います。

ちなみにこちらが、事故機の航跡です。

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羽田を飛び立ち、すぐに右旋回の後、太平洋上で3回ほど旋回をして羽田に戻ってきています。

事故機は世界最大の双発機である

まず今回事故を起こした機体は、ボーイング777-300ERという名前の機体です。これのどこが凄いのかというと、双発機(エンジン2発)として世界最大の旅客機だということです。

しかも長距離国際線仕様の機体。つまりとてつもない重量を持つ双発機なのです。データを見るに乗客はほぼ満席。貨物もそれなりにたくさん載っているでしょう。そしてニューヨーク行きということで燃料も満載に近かったはずです。

777-300ERのエンジンはすごい推力を持っています。あんなに重たいニューヨーク行きの飛行機を持ち上げてしまうのですから。

そんなエンジンが1機止まるとどういうことが起こるでしょうか?

そう、推力が大きく非対称になり、頭をぐ~~~っと横に振られるはずです。今回の場合は左エンジンが故障してますので、機体には左側に回ろうとするモーメントが働くはずです。(専門的には左へのヨーイングモーメントとローリングモーメントが発生する。)

事故機は羽田空港のRWY34Rを離陸しました。その後、右旋回をしています。左の推力を失いながらも上昇を続けています(恐らく突然ではなく徐々にです)。そして、左に回ろうとするモーメントに逆らって右に旋回しています。

その時点で、僕は「飛行機の設計ってちゃんとしてるんだなー」と感心してしまいました。最大離陸重量に近い(と思われる)重量でも、片発で離陸上昇できるんですね。そしてエンジンの非対称推力に打ち勝って、望む方向に旋回できるんですね。

しかも今回のJAL機に付いていたエンジンというのは世界最大の推力を出すGE90-115Bというエンジンなんです。そんなエンジンが片側だけ止まると、すごい非対称推力が発生するはずですが、そんな状態でも旋回も回転もしないで飛行できる飛行機ってすごいですよね。

大したもんだと思いました。パイロットが、じゃないです。飛行機がです。

(今回の事故は、エンジンが突然推力を失ったとは考えにくいため、推力の低下及び非対称推力に対する機体の反応は比較的緩やかであったと推測できます。)

飛行機は一発停止しても離陸できる

飛行機は離陸滑走中、V1と呼ばれる離陸決心速度を過ぎた後、エンジンが故障しても離陸を継続しなければなりません。それは速度が出過ぎた状態では、止まる方が危険だとされているからです。オーバーランをする可能性があるからです。

今回の事故は、浮揚した後にエンジンから火を噴いていますので、離陸を継続すべきかという議論は意味をなしませんが、飛行機というのはいくら重くても、滑走路の長さを含め既定の範囲内であれば、たとえ1発のエンジン推力を失っても安全に離陸ができるように設計されています。

双発エンジンの飛行機の両方のエンジンが故障してしまったら、離陸も上昇も無理ですが、半分の推力があれば離陸しある一定の勾配で上昇できるように設計されています。

(ちなみに両エンジンが故障するとこうなります↓)

flyfromrjgg.hatenablog.com

離陸直後のエンジン故障は、設計上想定される範囲内であり、もっとヤバい走っている途中にトラブルを起こしても飛行機は安全に離陸ができるのです。

燃料を投棄するのは何故か

今回JAL機はエンジン故障の後、太平洋上に出て、海上で燃料を投棄しています。なんでそんなことをするのか?あんなことをしたら海が汚れるではないか?とお思いの方。

燃料投棄は重量を減らすためです。基本的に飛行機は離陸できる重量と着陸できる重量が違います。重い状態で離陸してしまったら、その状態では着陸できないのが常です。

離陸と着陸の大きな違いは、着陸時には機体の重量の何倍もの力が脚に掛かることです。そのために最大着陸重量というのが設定されています。この最大着陸重量を下回らないことには、着陸することはできません。仮にこの重量を超えて着陸した場合、機体が壊れても文句は言えません。(火災が生じている等、切迫している時には最大着陸重量を超えて着陸することもあります。(追記))

もう一つ燃料を投棄するのは、着陸に失敗した際の火災を最小限に抑えるという意味合いもありますが、今回の場合はあまり当てはまらないでしょう。ギアのトラブル、例えば片輪が出ないなどのときには、間違いなく胴体やエンジンを地面にこすりますので、本当に必要な燃料だけにして着陸することがあります。

燃料の投棄は専用のノズルで行います。飛行機の燃料(ケロシン)は気圧が低い高空で噴射するとすぐに蒸発してしまい、地上には落ちてきません。「海が汚れる」とかいう人がいますが、少し的外れな意見ですね。多少大気が汚れるかも知れませんが、変な物質を煙突からモクモクと出す工場の方がよっぽど大気を汚染していると思います。

ニュースで乗客が撮影した動画を見て、翼の先端付近からシューっと何かが漏れ出ているのを見て恐怖感を感じた方。安心して下さい。あれは重量を軽くするために燃料を捨てているだけです。パイロットが意図的にそこのバルブを開いて翼の中にある燃料を捨てているのです。

パイロットは緊急着陸時の手順に従っているだけです。全て訓練でやっていることですので、目新しいことや判断に迷うことはないはずです。飛行機は緊急時にパイロットが記憶に頼って操作しないように、緊急手順というものが定められています。手順に従って操作をしていけば、頭がパニクって何も思い出せなくても、緊急事態に対処できます。

今回のようなエンジントラブルは典型的なトラブルとして、緊急手順が確立しています。パイロットはそれに従って対処をするだけです。今回ばかりはパイロットの腕というよりも、航空機の設計が優秀であることが勝っているでしょう。

777は片発で5時間半も飛んでいい

この小見出し、ちょっと語弊がありまして、技術的に「表現が適切ではない」というご指摘を受けるかも知れませんが、あえてこの小見出しとしました。

777-300ERは長距離国際線を飛ぶ飛行機ですので、洋上をずっと飛ぶこともあります。今回の羽田-ニューヨーク線なんて典型的な洋上路線ですよね。

じゃあ洋上でエンジンが1発故障したらどうするんでしょうか?洋上に降りるのでしょうか?いえいえ、これにはETOPS(イートップス)というルールがありまして、「エンジン故障時に何分以内に降りられる空港があるところしか飛べない」ことになっており、それを満たすルートを飛んで、いざとなったら緊急着陸をしなさいと定められています。

洋上を飛ぶ飛行機は、近くに空港がない場所は飛んではいけないんです。でもこのETOPSというルール、飛行機やエンジンの信頼性が上がるにつれて、何分以内という部分がどんどん拡大してきました。何分というルールは機種とエンジンの組み合わせなのですが、事故を起こした777の場合は330分とされています。

つまり、エンジン故障後、330分(5時間半)以内に降りられる空港が近くにあればよいことになります。ちょっと時間余裕あり過ぎじゃないですかね???どこを飛んだって、5時間半も飛べば空港くらいありますよね。

つまりこれは、エンジンの信頼性が高いという証拠なんです、1発故障しても、もう1発が故障する確率が極めて低いから330分も片発で飛んでいいことになっているんです。

このETOPSは、「何分以内に降りられればよい」という風に解釈するとよく分からなくなるので、「大きな数字を持つ飛行機ほど信頼できる」と解釈した方がわかり易いと思います。

トリプルセブンは超絶的にエンジンの信頼性が上がったことになります。だから安心して乗って下さいね。

やっぱり飛行機は安全な乗り物である

今回のJAL機の事故は、重々量の双発機がエンジン1発を失っても、十分安全に離陸ができ、適切な緊急手順に従い燃料投棄を行って、無事に飛び立った空港に帰ってきたわけです。

エンジン故障は飛行機事故の中でも最もヤバいトラブルですよ。特に双発機の場合は推力の半分を失うわけですから、相当ヤバい事象ですよ。エンジンがないと飛行機は飛べませんから、エンジン故障というのは他の系統の故障よりも格段に緊急度が高いのです。

でも飛行機はちゃんと戻ってきました。推力を徐々に失う中、ちゃんと旋回も出来たし、片発での着陸も出来た。

凄いじゃないですか、飛行機って!

みなさん、飛行機は片発でも余裕で飛べます。重量オーバーすることがないよう、燃料を捨てられるようにもなっています。

今回の事故を見て、僕は「いや~飛行機って安全だな~」という思いを強くしちゃいました。恐怖感など全く感じませんでした。この世の中に飛行機ほど安全な乗り物はありません。

今日も明日も、安全な飛行機が、皆さんの街の上空を静かに飛んでいるのです。


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