イケてる航空総合研究所

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ANAの定員オーバー立ち乗り事件を考える【同じ方法で不正搭乗できるんじゃないの?】

9月30日に福岡空港で、飛行機の「立ち乗り」という事件が発生しました。ANAの羽田行きの飛行機に搭乗手続きを済ませていない人が飛行機に乗っていたんです。機内は満席、ドアクローズして動き始めたところ、座席のない乗客がいることに客室乗務員が気付き、飛行機はそのまま駐機場に戻りました。航空保安上あってはならない事態です。

チケットレス搭乗サービスについて

何故こんなことになったのかということですが、これには10年くらい前から普及し始めた「チケットレス搭乗サービス」というものが大きく関わっています。ANAでは「スキップサービス」JALでは「タッチ&ゴーサービス」と呼ぶサービスですね。名前からも想像できるように、搭乗手続きを省略し簡単に飛行機に乗れるというサービスです。

まずは問題の「チケットレス搭乗サービス」から説明していきましょう

昔は飛行機に乗る前には航空会社のカウンターで搭乗手続きを行い、紙の搭乗券を発行してもらってから飛行機に乗っていました。ところが最近は紙の搭乗券がなくなり、乗客はカウンターで搭乗手続きをすることなく飛行機に乗れるようになりました。

航空券を予約してあれば、スマホのFelicaや家のプリンタで印刷したQRコード(2次元バーコード)を機械にかざすことで、保安検査場に入り、同じくスマホやQRコードで搭乗ゲートを通って飛行機に乗ることができるのです。

僕もANAやJALに乗るときはいつもこの方法を実践しています。とても便利です。

実際に起こった事件と同じく、本記事では「ANAのスキップサービス」で「QRコード」を使用して搭乗したこととします。(以降、スキップサービス、QRコードという表現を使用)

保安検査場ではQRコードをかざすとレシートが出てきます。レシートには便名や搭乗ゲート番号、座席番号などが書かれています。

保安検査場を通過したのち、今度は搭乗ゲートで同じQRコードをかざすと飛行機に乗ることができます。搭乗ゲートでは今や半券すら出ません。昔は紙が出てきて係員が手渡ししてくれていましたが、今では係員が一人一人かざすところを見ているだけです。

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どうやって「立ち乗り」したのか

当時、同じANA便に乗る「父親」と「息子」が保安検査場を通過しました。2人とも自分の予約を持っており、不正をするつもりは一切ありませんでした。

父親は父親のQRコードをダウンロードし、息子は息子のQRコードをダウンロードしました。と言いたいところですが、実は息子は間違って父親のQRコードをダウンロードしていました。一方、父親はちゃんと自分のQRコードをダウンロードしていました。つまり、空港には父親が2人いることになっていました。それが事件の始まりでした。(スマホの電池切れ等を考慮し複数回ダウンロード可能)

保安検査場では父親から先に通過しました。QRコードを機械にピッとかざすと「ピロン」という気持ちのいい音とともにレシートが出てきます。父親は何の障害もなく通過できました。次に息子が通過しようとすると、何故かエラーとなりました。既に通過したはずの父親のQRコードをかざしたからです。

実はこのエラーよくあることなんです。「二度かざし」ということが起きるからです。例えば機械にスマホかざし、そのスマホを手で持ちながらレシートを取ると、もう一度かざしてしまうということが起きます。僕も何度かやったことがあります。

保安検査場の係員もエラーには慣れているので、息子のエラーを「二度かざし」だと判断しました。そしてそのまま息子を通過させてしまいました。

ここで、保安検査場を通過する順序についてですが、父、息子どちらが先に通過しても同じことが起きます。事件とは反対に、息子が先に通過しようとすると、息子はシステム上父親だと判断されていますが、障害なく通過することができます。そして次に通過する父親でエラーが起きます。

保安検査場の係員が父親のエラーを「二度かざし」だと判断すれば、父親も無事保安検査場内に入ることができます。とにかく先に通った人には何も起きません。後(2番目)に通った人にエラーが起きる仕組みになっています。

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搭乗ゲートでは本人確認が行われたはずが…

今度は搭乗ゲートで起きた出来事を見てみましょう。搭乗ゲートでは息子が先に通過しました。息子は父親のQRコードを使っていますので、父親として搭乗することができます。続いて父親が通過しようとするとエラーになります。既に父親は乗っていることになっているからです。今度はANAの地上係員が、この事象を「二度かざし」だと判断しました。「二度かざし」は搭乗ゲートでもよくあることなんでしょう。

次にANAの地上係員はどうしたかと言うと、「さすがに変な人を搭乗させるまい」と、ちゃんと本人確認をしたそうです。本人確認の方法は不明ですが、かざすQRコードに入っている父親の名前と本人の身分証明書か何かの名前を照合したのでしょう。本人確認を受けた父親はちゃんと自分のQRコードで乗っていますので、何の疑いの余地もなく本人確認がなされることになります。

逆の順序で乗った場合はどうなるでしょうか?仮に、事件とは逆の、父親→息子の順で通ったとしましょう。その場合は息子の本人確認で引っ掛かります。息子のQRコードには父親の名前が登録されていますので、息子の身分証明書と合わないことになります。

そうなんです。この事件は搭乗手続きすら行っていない息子が先に搭乗ゲートを通ってしまったがために、発見することができなかったんです。父親が先に乗っていたら絶対に発見できていました。つまりこの事件が明るみに出たことで、システムに穴があることがわかってしまったと言えます。

息子は自動的にキャンセル、空席待ち客が乗った

これで無事、息子と父親は機内に入ることができました。しかしなぜ息子には席がなかったのでしょう。予約はしてあるはずです。きっと座席指定もしてあったはずです。なのに息子の座席には別人が座っていました。

それはこの便が満席だったからです。息子はシステム上、空港には来ていないことになっています。保安検査場も通っていませんし、搭乗ゲートも通っていません。あくまでもシステム上はですよ。

予約を持っているにも関わらず搭乗手続きをしないとどうなるか。その場合、「この人は乗らない」と判断され、予約は自動的にキャンセルされます。搭乗直前に空席待ちの人が次々に放送で呼ばれ、機上の人となっていくのはそういうわけです。

「予約したけど乗らない」客は必ず一定数いますので、航空会社は容赦なくそういった客の予約をキャンセルし座席を開放していきます。息子の座席も解放され、空席待ちをしていた客に渡されました。

満席じゃなかったら気付かないのか?

満席の乗客に対し、息子の座席がないまま、飛行機は出発しました。出発したと言っても飛んではいません。飛行機はまだ地上にいました。ここで客室乗務員が気付きました。息子の座席がないことに…。慌てて飛行機は駐機場に戻りました。

ここで疑問が湧くのですが、もしこの便に空席があり、息子が空いている座席に座ってしまったらどうなるのでしょう。誰も「立ち乗り」乗客がいることに気付かないのではないでしょうか?

客室乗務員が乗客数を数えているとは思えません。そんな面倒なことを機内で行っていたら定時出発ができなくなるからです。50人乗りの飛行機ならばまだしも、B777などの500人乗りの飛行機で乗客数を数えていたら日が暮れます。

客室乗務員一人当たり50人を数えればよいという話もありますが、数えている最中に乗客から話し掛けられることもあるでしょうし、こっそり座席を変わる乗客もいます。乗客全員が乗り込んでいても、乗客数を正確に数えることは不可能に近いです。本当は合っているのに客室乗務員が数え間違えていたら、飛行機はいつになっても出発できないことになります。

つまり、この事件は飛行機が満席だから「立ち乗り」している客に気付いただけであり、もし空席があったら本人すら気が付かずに出発していた可能性が高いのです。

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同じ方法で不正搭乗が可能

元々僕は、このブログに事件のシナリオを書くことしか考えていませんでした。しかし、記事を書いているうちに、システムに大きな「穴」があることに気が付き、同じ方法を採れば意図的に飛行機に「立ち乗り」ならぬ「タダ乗り(不正搭乗)」ができるということを発見してしまいました。

その方法とは、空席のある便を選び、搭乗ゲートを通過する順序を「不正搭乗する人が先」とするだけです。「ちゃんとお金を払っている人」が後に通過すれば、「二度かざし」と判断されても、本人確認でちゃんと乗ることができます。

もちろん鋭い地上係員に気付かれる可能性はあります。後に通った人が「二度かざし」ではないと判断されれば、先に通過した人の不正搭乗がバレます。しかし「二度かざし」はよくあることなので、実際にはなかなか気付かれにくいと思われます。

先に通った人が足早に機内に消えてしまえば、追いかけることは実質できなくなり、エラーとなった人を「二度かざしということにしてしまえ」となる可能性が高いです。地上係員も定時出発させることが業務目標になっていますので、「二度かざし」として本人確認をし、迅速に処理できる方がありがたいわけです。

先にも書きましたが、不正搭乗には空席があることが前提です。機内に入った不正搭乗客は空いていると思われる席に座ればいいだけです。機内では乗客数を数えることは滅多にありませんので、空席に座っていてもまず気付かれることはないでしょう。

同様の事象が4年間で236件もあった

この事件を受けて、国土交通省が各航空会社に対し調査を実施しました。過去に同様のことがなかったかどうかということを調べたのです。そしたら出るわ出るわ。2012年からの約4年間で「搭乗手続きをした客と、実際に乗っている客が合わない事象」が236件も出てきたのです。

ただしこれは旅客不一致ということで、全部が全部「立ち乗り」ということではありません。「立ち乗り」は5件にとどまっています。この調査結果には色々と疑問が湧いてくるのですが、それはまた別の機会に議論をすることにしましょう。

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本当の「立ち乗り」は調査結果には現れない

「立ち乗り」は5件にとどまったと書きましたが、よ~く考えてみると、「立ち乗り」に成功した場合は、報告もされないため表面化することはありません。この調査結果は「立ち乗り」が発覚した、つまり誰かが気づいて適切に対処した事象が5件あったというだけなのです。調査結果を真に受け、5件の「立ち乗り未遂」を憂うべきではありません。憂うべきは調査結果に現れない本当の「立ち乗り」なのです。

これがこの事件の一番怖いところです。スキップサービスやタッチ&ゴーサービスのような「チケットレス搭乗サービス」は不正搭乗客が乗り込む余地があるということです。

同様の事件は紙の航空券では起きません。搭乗券を持っていない人は保安検査場も搭乗ゲートも通過できないからです。電子的な方法で搭乗でき、「一人分の航空券で二人が乗ろうとしても二度かざしと判断されるミス」があり得る今の方式だからこそ起きる事件なのです。

人を責めずシステムを責めよ

こういった事件が起きた時、真っ先に責められるのが保安検査場の係員やANAの地上係員なのですが、よく考えてみて下さい。本当にその人達が悪いのでしょうか?僕はそうは思いません。

ミスをする余地があるシステムが悪いのです。保安検査場の人もANAの地上係員も一生懸命仕事をしています。早くたくさんの乗客をさばこうと必死です。「二度かざし」はよくあることです。しかしごく稀に「二度かざし」ではない事象が混じります。その事象を即座に見分けられるでしょうか?恐らく無理だと思います。それを現場にゆだねるのは少し酷な気がします。この事件は人為ミスではありません。システムの欠陥です。だからどうか人を責めないで欲しいのです。

電子的な方法には必ず欠陥があります。開発時には想定していなかったような事象が現実の運用の中では起こります。それが今回は「立ち乗り」事象だったのです。もしかしたら問題があることを認識した上で、現実には滅多に起きないという理由から対策を取らなかっただけかも知れません。それは僕にはわかりません。

何はともあれ今回、重大な欠陥が発見されたのですから、「現場が悪い」などという短絡的な議論に終始するのではなく、問題の本質を見極めた上で、適切な対策が取られることを期待します。


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