ビジネス、観光ともに需要は減少
これからの航空業界を占うニュースとして、先日のウォーレン・バフェット氏の航空株全売却は航空界・投資界にかなり大きな衝撃を与えたかと思います。僕もバフェット関連の本は幾つか読んだことがあり、その投資哲学には非常に共感するところがありますので、バフェット氏の「3~4年後に、昨年までのように飛行機に乗るようになるのか見通せない」という発言は非常に同意できるものです。バフェット氏は9.11テロ後のエアライン破綻と重ねて「航空株が紙屑になってしまうかも知れない」とか、欧州で現在進行中の「エアラインが国有化される」ことを気にしているだけだと思います。バフェット氏の投資哲学的には、先が見通せない限り株式を保有しませんから…。
いずれにせよ、向こう数年の航空業界は凍り付いてしまうような冬の時代がやってくるということは間違いないでしょう。
航空業界は、10年単位の長期的視点に立てば確実に復活していくとは思います。ただし、今回のコロナウィルスの一件は、世界の人々の考え方を一変させ、過去とは異なる航空業界に変貌させる可能性があることは肝に銘じておいた方がよいかも知れません。
例えばビジネス客に関しては、今回の一件で「テレビ会議や電話会議で十分じゃないか?」ということになり、出張需要が激減するでしょうし、観光需要についてもレジャー需要は衰えにくいかも知れませんが、例えば「奥さんに支持されない帰省」や墓参りなどの「儀式的な人の動き」はなくなっていくと思います。
レジャーについても先日の「国立科学博物館のVR」の記事でも書いた通り、「静的なものを楽しむ娯楽」は一度行けば二度目はバーチャルでもいいという考え方が定着する可能性があり、2回の旅行が1回になってしまうという需要半減の形もあり得るでしょう。
また、当面は「世界的に不況」となりますので、人々の財布のひもが固くなります。するとレジャーについても安近短の需要が増え、LCCのような運賃が安い航空会社が選ばれることに繋がります。短距離ならば座席は狭くても良いですから、なおさらLCCが選好されやすいでしょう。
一方で航空貨物需要については、旅客便の運航便数の減少の影響を受け、1機当たりとしてより大型の容量が必要になってくるはずです。
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想定される旅客・貨物の未来
今後の航空業界の中で、航空会社はどのような形で存続していくかと言うことなんですが、上記で述べた通り、- ビジネス客の激減
- レジャー客の出費抑制と短距離化
- 1機当たりの貨物需要増大
という状況になると予測されることから
- ビジネスクラスの縮小
- 格安航空会社の成長
- 多くの貨物搭載スペースが必要
という未来が想定されます。これまで長距離国際線のビジネスクラスで利益の大半を稼いできたフルサービスキャリアはかなりの苦戦を強いられるはずです。一方でLCC的なビジネスモデルは継続して発展していくでしょう。
しかしLCCの成長には厄介な問題があります。フィジカルディスタンス(身体的距離) です。LCCのようなギュウギュウ詰めのキャビンは、一時的かも知れませんが、嫌われると思います。僕はそのうち忘れ去られると思っていますが、欧米でもマスク生活が定着したり、生活様式が変わることにより根強く残る可能性も否定できません。
貨物需要については、ある程度国際線が復活すれば、ベリースペース(床下の貨物スペース)が確保できますので、あまり心配はしていませんが、当面は需要が供給に追いつかない状況が想定されます。
カウチシートが全てを解決する
ここで一つ、僕が思い付いたアイデアを紹介したいと思います。ビジネス客の減少、レジャー客の出費抑止、フィジカルディスタンスの確保、貨物需要の逼迫、これらを全て満たせる解が、ANAのA380や国内LCCであるピーチのキャビンに隠されていると思ったんです。それは、
カウチです。
カウチとは3人掛けまたは4人掛けのシートを1人で使用できる仕組みのこと。一人が3席または4席を買うことにより、座席を1列丸ごと使えるようになります。
ANAのA380ホノルル線で採用されているカウチ。一列丸ごと使えるだけではなく、フットレストを上げることでフルフラットのベッドになります。(ANAよりもニュージーランド航空が先行していましたが…。)
詳しくは以下の記事をご覧下さい。
またLCCのピーチでも同様の「スペースシートオプション」という名で同様のサービスが提供されています。
ただし、ANAのようにフットレストが上がり、隙間のないベッドにはなるわけではなく、座席に寝転ぶだけとなります。
キャビンを全エコノミークラスに
このカウチというアイデアをどう活用するのかですが、キャビン全体をエコノミークラスにして、ビジネスクラスの乗客には3人~4人分のスペースを提供してカウチとして使ってもらい、エコノミークラスの乗客にはこれまで通りの座席を提供するのです。LCCをはじめエコノミークラスの多いエアラインでは、搭乗率を8割以上と高く保たないと採算が取れませんが、カウチという仕組みを取り入れることにより、3席または4席を1人で使用するビジネスクラス客が高い料金を支払い、エコノミークラスの収益を補ってくれるため、エコノミークラスの空席が多くても良いことになります。
つまり、エコノミークラスでも3人掛けの中央席を空けるなどフィジカルディスタンスを確保することができます。(ここで言うフィジカルディスタンスとは2mという意味ではなく、最大限の距離を取るという意味として使っています。)
これでビジネスクラス客もエコノミークラス客も、全エコノミークラス機で快適かつ安全に空の旅を楽しむことができます。
ただ、この仕組みだとビジネスクラスとエコノミークラスを大きく差別化できないため、ビジネスクラスの客には従来通りに専用カウンターやラウンジなどの地上サービスを充実させ、エコノミークラスとは異なる食事を提供しなければなりません。でも、そうすれば、エコノミークラスの低搭乗率をカバーできる料金を設定できるのではないでしょうか?
例えばLCCとして、日本からバンコクまで片道エコノミークラス2万円、カウチ10万円という5倍くらいの格差でやって行けないでしょうかね?
しかし、エコノミークラスがガラガラの場合、ビジネスクラスと同じように3人掛けを占領できてしまうため、何らかの工夫が必要なのは僕も理解しています。(あくまでもアイデアレベルのため、ここでは細かいことはあまり気にしないことにします。)
また、全エコノミークラスのキャビンは、航空会社に大きなメリットをもたらします。その日の搭乗率や搭乗客の層に応じてビジネスクラスやエコノミークラスの比率を変えられるため、複数のコンフィギュレーション(客室仕様)の同一型機を飛ばす非効率性をなくすことができます。そもそも上級シートへの投資が不要となりますので、その部分でもコストの削減に繋がります。
キャビンを全エコノミークラスとしでカウチを採用すれば様々なことが解決できるのです。
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ビジネス客には時間に価値を与える
ビジネス需要が激減したとは言え、面と向かってビジネスの話をする機会が皆無になるとは思えません。そして上記のようなカウチに満足できないビジネス客は一定数いるでしょう。あんなインチキビジネスクラスは嫌だと…。そんな一部のハイクラスなビジネスマンたちには別の解を用意してあげるんです。それは、超音速機です。
50人~100人の人が乗れる全ビジネスクラスの超音速機がいいんじゃないでしょうか?
テレビ会議や電話会議は両地域の時間さえ合えば瞬時にできます。今や遠く離れている相手と話をするために必要な移動時間はゼロなんですよ。その絶大な時間短縮効果に勝てるのは「どこでもドア」しかありません。しかしそんなものはありませんので、「時間が掛かる亜音速機」ではなく「時間を節約できる超音速機」が最善の解となります。
マッハ2で飛べば理論上所要時間は半分になりますので、これまでになかった航空旅行の付加価値を提供することができます。ビジネス客にはキャビンの快適性ではなく時間に価値を与えてあげるのです。
幸いなことに超音速機は、コンコルド開発からの50年間のブランクを経ていよいよ実現しようとしています。
その先駆け的な存在がBoom社。
このBoom社の超音速機については以下の記事がまとまっています。
またこれくらいの規模の超音速機ならばオールソロシートとなるため、自動的にフィジカルディスタンスは保たれることとなります。
まさに今必要とされている航空機です。
もう一つ有望なのがこちらです。
Aerion社のAS-2という超音速機。マッハ1.4のため、そこまで時間短縮になりませんが、遅い分低コストな超音速機を実現できるメリットがあります。
超音速が実現すれば、激減してしまったビジネス客のニーズを新しい形で満足させることができるのではないでしょうか?
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貨客混載のキャビンもアリ
最後に、キャビンが全エコノミークラスになったとしたら、現在一部の便で行っているように、キャビンを貨物スペースとして活用するアイデアもうまく機能するでしょう。人が運べるサイズの段ボール等はキャビンに搭載するということも考えられます。乗客のスーツケースをキャビンに搭載するという方法もアリかと思います。
なにせ流行りのゴツいビジネスクラスのシートは貨物搭載には不向きです。複雑な形状をしたボックス席が並んでいるため、広いスペースとは裏腹に段ボール一つ置けるかどうか微妙だからです。
しかし全エコノミークラスの機体であれば、どこに搭載しても良いことになり搭載のバリエーションが増えます。重心の管理も容易になりますよね。
ちなみに旅客機には「コンビ」と呼ばれる貨客混載型のものがありますが、コンビの場合はキャビン後方を貨物のエリアにしてしまうもので、キャビンとは壁で隔てられ、基本的に行き来はできません。
しかし新しいキャビンでは貨物スペースとしたキャビンはカーテンや取り外し可能な壁(仕切り)のようなもので隠します。需要に応じて様々なキャビンアレンジが可能な点がコンビより優れています。
貨物輸送という観点でも全エコノミークラス機が生きるわけです。
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明日も飛行機は飛び続ける
「コロナウィルスはこれまでの日常を変える」という意見を色々なところで聞くようになりましたが、航空業界こそ明日にでも総倒れになってしまいそうな業界のため、移動制限解除後にはかなり早急な収益確保のアイデアが必要になると思っています。上に書いたことをまとめると、1つ目のアイデアはキャビンを全エコノミークラスにしてカウチを導入すること。これでビジネスクラスとエコノミークラスを同じシートで区別することができます。しかも貨客混載時にも搭載スペースに自由度が生れます。
そして2つ目は、超音速機でワンランク上のビジネス客たちを取り込むのです。
次に航空界に来る波は、この全エコノミークラス機と超音速機の2階層構造ではないでしょうか?
いくらウィルスが蔓延する世界になったって世の中から人々が移動する手段がなくなることはありません。「客がいなくなったから事業終了」では誰も幸せになりません。時代に合った方法を見つけ出したエアラインこそコロナ後の時代を生き抜いて行けるのです。明日も必ず飛行機は飛び続けるのです!
スイマセン。根も葉もない話を長々としてしまいました。でも何だか色々と考えるのが楽しくて…。
実はGWのお休み中、コロナ後の飛行機はどんな風になるのかなぁと、朝は新聞を読みながら、昼は公園で子供と遊びながら、夜は1人机に向かいながら、妄想にふけっていたんです。それで出したのがこの答えです。まだまだ煮詰めないといけない部分はあるかと思いますが、なんとなく言いたいことは言えたような気がします。後は誰かが実現してくれるだけ。
言うは易く行うは難し。
何だって言うのはタダ。ここは言うだけ言って逃げちゃいましょう(笑)。
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