イケてる航空総合研究所

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海保機とJALの衝突事故、実は一人の管制官が海保機の誤進入に気付いていた。

事故の経過報告が出た

昨年12月25日、運輸安全委員会は同1月2日に羽田空港の滑走路で起きた海保機とJAL機の衝突事故の報告書(経過報告)を出しました。

https://jtsb.mlit.go.jp/jtsb/aircraft/detail.php?id=2376

全166ページに及ぶPDF文書なので読むのには時間が掛かりますが、かなりディープに事故の詳細が描かれており非常に興味深いです。経過報告ですので、引き続き調査が行われます。


(羽田空港での事故当時の管制の状況について/報告書より抜粋)

僕も年末年始の休みを利用して全部を読んでみました。衝突後、機体の故障状態はどうだったか、停止後どのように火災が進んだのか、また、クルーたちはどのように乗客たちを避難させたのかなど、非常に細かく状況が書かれています。

ここでは全ては紹介しませんが、一点、報道されていない内容でとても気になる記述がありましたので紹介したいと思います。

事故が発生した原因

まずは思い出すために、報告書に書かれている事故の原因(要因)について簡単に解説したいと思います。報告書から引用します。

3.1.2 事故発生に関与した要因
本事故は、以下の3点が重なり発生したものと考えられる。今後、事故の再発防止の観点から、以下の3点について、その要因の分析を進め、原因を明らかにする必要がある。(A機:海保機/B機:JAL機)

  • A機は、航空管制官から滑走路への進入許可を得たと認識し、滑走路に進入し停止したこと。
  • 東京飛行場管制所は、A機が滑走路に進入したこと及び滑走路上に停止していたことを認識していなかったこと。
  • B機は、滑走路上に停止していたA機を衝突直前まで認識していなかったこと。

報告書では海保機、管制官、JAL機のそれぞれに過失があった、とは明示的に書かれていませんが、それぞれに事故に至らしめる何らかの要因があったことが示唆されています。

「事の発端は滑走路に誤進入した海保機で、それに管制官もJAL機も気が付けなかった」という構図ですね。

海保機が「C5の停止位置で待機せよ」という指示を「滑走路への進入許可」と誤認したことにより事故に繋がりました。もちろん気が付かない管制官もJAL機も問題があるのですが、特に海保機が誤認した理由について、以下の9個もの要因が指摘されています。(報告書内容を要約しています。)

  • 自機の出発遅れがあり、隊員の帰宅時間を考慮して焦っていたこと。
  • 無線周波数切り替えタイミングによりJAL機の着陸許可を聞いていないこと。
  • No.1(離陸順位が1番目)であると指示を受けたこと。
  • 先行の出発機がいたのに自身がNo.1となったため、自機が優先されていると感じたこと。
  • 操縦士間の指示の確認(復唱)を簡略化したこと。
  • No.1であることにより、離陸準備を急いだこと。
  • 滑走路に入る時、着陸してくるJAL機が見えていなかったこと。
  • 滑走路進入時に海保内部の無線通信が入ったこと。
  • 停止線灯が運用されていなかったこと。

これだけの要因が重なって指示がないのに滑走路へ進入してしまったようです。元々焦っている上にNo.1と言われたことが誤解の大きな要素だったんだと思います。

(管制官側として、海保機の離陸を優先した理由については、「衝突したJAL機と後続機が着陸する機体の間に海保機の離陸を入れれば、(海保機は小型なので)離陸機の後方乱気流を気にせずに後続機が着陸できると考えたから」である旨が記述されています。海保機が優先されていると思ったのは完全に誤解だったんです。)

一人の管制官が気付いていた

では管制官はどうだったのか。担当の管制官が海保機に全く気が付いていなかったのかというと、当人は全く気付いていなかったようなのですが、実は気付いていた管制官がいたことが報告書には書かれています。(これが報道されていない部分です。)

ホットマイクのスピーカーを通して、B機(JAL機)はどうなっているかと問うようなDF(ディパーチャー席)の声が聞こえた。タワー東は、B機は着陸のため問題なく滑走路へ進入を続けているように見えたため、DFからの問合せの意図が分からなかった。タワー東は、B機が復行するのではないかと思い、引き続きB機を注視した。

タワー東は、ホットマイクのスピーカーを通じて、B機はどうなっているかと問うようなDFの声を聞いた。DFは、東京ターミナル管制所において、空域監視画面及び空港面を表示する画面を確認しながら出発機に関する調整を行うほか、航空機が復行する際に飛行場管制席から通報を受け、飛行経路、高度及び使用周波数等の指示をする。DFは、このとき、タワー東との調整によりB機が着陸した後に離陸することになっていたA機が、空港面を表示する画面上で滑走路に入っているように見え、最終進入コース上のB機は復行するのかと考えたが、飛行場管制席からはB機が復行するとの通報を受けていなかったため、B機の状態をタワー東に問い合わせたものである。

海保機を担当していた(管制塔の上にいる)管制官は、(別の所で)レーダー画面を見ながらディパーチャー(出発機)を担当する席から、「海保機が滑走路上にいるように見えるが、JAL機をゴーアラウンドさせないのか?」という意図で「B機はどうなっている?」と聞いたようなのですが、これを海保機担当の管制官は理解できなかったんですね。

誰も気が付いていなかったと思われる海保機の誤進入だったのですが、実はディパーチャー席が気付いていたんですよ。しかし言葉が足りず、海保機を担当する管制官には伝わりませんでした。これは非常に悔やまれる話です。

警告システムは誰もアテにしていない

なお、管制塔には滑走路への誤進入を知らせてくれる警告システムがあるのですが、そのシステムについて以下のことが書かれています。

(4) 航空管制官による滑走路占有監視支援機能の取扱い
タワー東は、同支援機能について、実際に滑走路の占有が重なっていない場合にも注意喚起が表示されることがあることから、また、音声アラームもないことから、ふだんから当てにしづらいと感じており、目視による状況把握を支援してくれるシステムであるとは考えていなかった。(中略) グラウンド東も、同支援機能について、実際の滑走路占有状態とは関係のない状況下で注意喚起が表示されることが多いと感じており、目視による状況把握を支援するシステムとしては不十分だと思っていた。

要するにアラートシステムはオオカミ少年になっていたということです。この部分についても報道はされていませんよね?国交省にケチをつけると大変なことになるからでしょうか?

おわりに

何を言っても後の祭りなのですが、報告書を読んで、事故には複雑な経過があり、防ぐ道筋が全て塞がれたときに起きるものなのだなぁという思いを強くしました。これだけの要因が重なれば事故にも繋がるとも思えてきます。

あと一点、やはり報道は最も伝えやすい部分を伝えているだけであって、真相に迫りたいときには必ず自分自身で報告書を読んで判断しないといけないと思います。報道を鵜呑みにしてはいけません。自分で情報を取る考えるクセを付けないといけませんね。

最後に、本当はこんなことを言ってはいけませんが、なかなか勉強になる経過報告でした。

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