イケてる航空総合研究所

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ナンバーワンだけが悪者じゃない。交信記録からわかるJALと海保機の衝突事故の真相。

ナンバーワン悪者説

2024年1月2日、JALのA350と海上保安庁のDHC-8が羽田空港のC滑走路上で衝突・炎上した事故。色んなことが分かってきて、報道も目新しい情報がなくなり、少し落ち着いてきましたね。ただ、気になるのが管制用語の「ナンバーワン(1番目)」悪者説です。

このナンバーワンと言うフレーズが海保機に離陸許可を与えたと勘違いをさせ、事故に至らしめた、という報道がなされています。これに対して僕は、少し短絡的過ぎるのではないか?という思いを抱いています。「そんな、たかがナンバーワンと言われただけで、勘違いするかよ。」と。

滑走路への進入許可は「Line up and wait」(ラインナップアンドウェイト)、離陸許可は「Cleared for takeoff」(クリアードフォーテイクオフ)です。「ナンバーワン」とは単なる離陸順/着陸順のアドバイスであって、何かの許可の意味はありません。ナンバーワンだけで離陸許可と解釈してしまった、とするのはいささか疑問です。

交信記録をつぶさに見て行くと、勘違いを助長させたのは、ナンバーワンというフレーズだけではなく、他の機体との会話を含めた交信の全てではないか?ということが浮かび上がってきます。「こんなにうまく行くものか」というくらいに勘違いをするようなフレーズが並んでいるんですよ。

主に報道されて入いる内容

それでは見て行きましょう。


報道されているのはほぼここまでです。皆さんよく知っている内容です。

海保機は「1番目」と言われたので、離陸許可を得たと思い込み、滑走路に入ってしまったと。(この1番目という表現は、離陸の1番目、着陸の1番目とそれぞれに使われ、通常は滑走路使用順位の意味では使われません。)

いやいや、そんな簡単な話じゃないんですよ。と僕は言いたいです。

とりあえず、あまり報道されていない点として、この部分からわかるのが、「海保機はJAL機の着陸許可を聞いていない」ということです。海保機がタワーと初めて話したのが、JAL機の着陸許可の10秒後ですので、海保機はJAL機の着陸許可を聞いておらず、JAL機が今まさに着陸しようとしていることを知らなかったものと思われます。

ここで。

管制には色々な管轄の局があり、飛行機はゲートから幾つかの周波数を引き継いで離陸をしていきます。すなわち、飛行機は常に同じ周波数に合わせているわけではありません。地上にいる間でも数回の周波数変更を行って離陸をしていきます。

交信記録にはコンタクトのタイミングが書かれていませんので、海保機はJALの着陸許可に続いて話しているように見えますが、JALの着陸許可から海保機の初めての会話まで10秒のブランクがありますので、この10秒の最後の方で周波数をタワーに合わせたものと思われます。だから海保機はJALの着陸許可を聞いていないのです。

あと15秒早く、海保機が周波数を合わせていれば、周波数を合わせた瞬間にJALの着陸許可が聞こえたはずなので、誤認は防げたようにも思います。

勘違いを助長させる会話

続いての会話です。ここからはあまり報道されていない事実です。衝突したJAL機の後続機と管制官の会話です。離陸するまではこの周波数を使うので、海保機も聞いていたはずです。


後続機に対して「2番目」と伝え、しかも「着陸機あり(We have departure)」と付け加えています。この会話は通常ならば「この機体は2番目の着陸だな(前にもう1機いるな)」と解釈するのですが、この機体の前にいるJAL機(事故機)の着陸許可を聞いていない状態では、この後続機がこれから降りてくる着陸機だと思ってしまったのかも知れません。

また、「出発機あり」、「最低速度へ減速せよ」というアドバイス・指示によって、ますます「早く自分が出発しなければいけない」という心理状態に陥って行ったようにも思えてきます。

というわけで、「1番目」というフレーズ以外にも勘違いをさせるフレーズ、しかも焦るフレーズが満載だったわけです。

もう一度まとめると、

・JAL機の着陸許可を聞いていない。
・自分が1番目と言われた。
・JAL機の後続の機体が2番目と言われた。
・出発機ありと言われた。(自分が出発しなければ滑走路が空かない)
・着陸機が最低速度への減速を指示された。(出発しなければ間隔が詰まる)

これだけの情報が集まれば誰だって焦りますよね。「自分が早く出発しないといけない」と思ってしまうのは仕方がないように思えてきます。

意味のある対策を

国交省からは1番目とか2番目とか、順序を表す言葉は勘違いを招くから使うなというお達しが出ているようですが、僕はその言葉だけが勘違いをさせたようには思えません。仮に、1番目、2番目がなかったとしても、離陸許可を聞いていない、出発機あり、減速指示の3つでも十分に勘違いを助長するのではないでしょうか?

なので、ああいう拙速な対策はあまりよろしくないと思っています。これまで1番目、2番目という表現は、パイロットに対して離陸順、着陸順を明確に認識させる重要なフレーズだったわけで、それをなくすことで、パイロットのストレスにならないだろうかとか、出発準備、着陸準備に支障をきたさないだろうか?とかそういうマイナス面を心配してしまいます。

もちろん対策を取ることは必要なのですが、今までの長年の慣習をなくすことで、全く別の勘違いや誤解が発生して事故が起きないかと言うのも心配ですよね。

コロナの時もそうだったのですが、報じられることが全てではなく、自分の目や耳で確かめてちゃんと考えることが必要です。「ナンバーワン悪者説」に流されることなく、同様の事故が起こらないよう、よく考えられた真に意味のある対策をとってもらいたいものですね。


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