イケてる航空総合研究所

ビジネスクラス搭乗記、弾丸旅行のノウハウ、マイルの使い方、貯め方、航空事故の真相などなど。

パキスタン航空A320墜落事故の原因は何だったのか。限られた情報から何故墜ちたのかを推定する。

本記事はWEB上で知る得る情報を基に、事故の原因を勝手な想像で分析・考察したものであり、内容の信憑性を保証するものではありません。事故に対する一見解としてお読み頂ければ幸いです。

なお、2020年6月22日に初期調査報告書が出され、それについての分析記事を以下に書いています。

flyfromrjgg.hatenablog.com

A320が着陸やり直し後に墜落

2020年5月22日14時半頃(現地時間)、ラホールから首都カラチへ向かっていたパキスタン航空PK8303便A320(AP-BLD)がゴーアラウンド(着陸やり直し)の後、カラチ国際空港付近に墜落しました。詳細を報じている日本語ソースがあまりありませんのでなかなか情報が入ってきませんが、この事故は非常に不可解な点が多いため僕はかなり関心を持って見ています。着陸前の過大な降下率、異常報告のない1回目の着陸、エンジン下部の擦り痕、ゴーアラウンド後の両エンジン停止など、首をかしげてしまう事象がたくさんあります。

ブラックボックスが回収されているため、やがて事故の原因は明らかになりますが、恐らく2~3年先のため僕は待てません。ということで、事故の客観的な証拠から事故の原因をわかる範囲で考察してみたいと思います。

墜落した飛行機は世界でも売れ筋のエアバス機。日本でもピーチをはじめとするLCCがこぞって使用している機体です。よく事故を起こす機体ですが販売数が多いが故にそうなるだけであり、特に不安全な機体ではないことをまず強調しておきます。

事故の経緯

まず事故の経緯について簡単に書いておきます。機体は一度滑走路に進入した後再び上昇し、二度目の着陸をしようとする前に住宅街に墜落しました。

飛行したコースと管制との交信内容の全容を知りたい方はこの動画がわかりやすいです。↓

www.youtube.com

以下は、パイロットと管制官との交信、飛行経路(縦横)から時系列に出来事や事実を書いたものです。(簡略化のため全ては書いていません。)

  • 通常よりもかなり高い降下率で進入
  • 着陸許可の応答時に警報音が聞こえる
  • (着陸までパイロットからの異常報告なし)
  • (恐らく)車輪を下ろさずエンジンから接地
  • ゴーアラウンド(着陸やり直し)
  • (写真から)両エンジン下部に擦り痕あり
  • 3,000ft付近まで上昇(管制指示どおり)
  • 管制から降下していると指摘
  • パイロットからエンジン停止の報告
  • 管制から胴体着陸するかの確認(応答なし)
  • 管制からどの滑走路にも着陸可能と助言
  • 緊急事態を宣言(Mayday, Mayday, Mayday)
  • (以降交信なし)
  • (写真から)RAT展開、脚降下
  • 大きな機首上げ姿勢で墜落

ここから生じる疑問はたくさんあります。それぞれ事象の分析と可能性を探っていきましょう。

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大きな降下率について

これが事故の発端かも知れない大きな謎です。以下の絵(縦軸が高度、横軸が時間)を見て欲しいのですが、通常の降下率と比べてかなり大きな降下率で滑走路へ向けて降下しています。(青が事故機、オレンジが通常時)


f:id:flyfromrjgg:20200526222856j:plain

何故こんな急降下になっているのかわかりません。国内線の比較的短い路線であるため、降下するタイミングを逃したのでしょうか?それとも降下するタイミングを間違えたのでしょうか?

交信から、管制官は高度が高いことを懸念している様子がうかがえますが、パイロットはそれに応じていない様子が読み取れます。パイロットは「楽に降りられる(comfortable)」として「電波による誘導(ILS)を確立した」と答え、そのまま電波に乗って降りようとしています。

警報音はオーバースピードか

交信を聴いていると、着陸許可を出した後、パイロットの応答の背景で鳴っている警報音を確認することができます。

A320ではCRC(Continuous Repetitive Chime:連続的な繰り返しチャイム)と言うんですが、これは最もレベルの高い警報の音声アラートです。(下表参照)


f:id:flyfromrjgg:20200526222915p:plain

(http://www.smartcockpit.com/docs/A320-Indicating_and_Recording_Systems.pdf])

背景に聞こえる警報音からは何らかの異常が起きていることが読み取れます。しかし異常を示す交信は一切ない状況が続きます。

早速この警報の原因になり得るものを示します。下の図はオーバースピード警報が出る条件を示した図です。オーバースピードとは、速度超過、つまり出してはいけない速度を出しているときに出る警報です。


f:id:flyfromrjgg:20200528213625p:plain

(https://usermanual.wiki/Pdf/M2K20065FLIGHT20CREW20OPERATING20MANUAL20HCCRU202K.784598290/view)

オーバースピード警報は機体が物理的に出してはいけない速度以外に、フラップ角度や脚(車輪)下げ状態で変わってきます。当然、フラップが降りているとき、脚が降りているときはそれなりの遅い速度でオーバースピードになります。それでも風圧でフラップ/スラット、脚、脚扉などが壊れる可能性があるからです。

脚の制限速度(VLE)は280kt、フラップ1の制限速度(VFE)は230ktになっているのが読み取れます。

次に下の絵は脚が降りる仕組みを示したものです。


f:id:flyfromrjgg:20200527212213p:plain

(http://www.smartcockpit.com/docs/A320-Landing_Gear.pdf)

細かい解説は省略しますが、脚(車輪)は飛行速度が260kt以上では出ない仕組みになっています。逆に機体が260kt以下になれば脚を下ろせますので、早く降下させるために脚を降ろして抵抗を増やすというのは、事故機の状況ではあり得る話です。そしてあまりに降下率を高めるあまり、280ktを超えてしまいオーバースピード警報が出てしまったという可能性が考えられます。

もう一つはフラップ制限速度の可能性です。フラップも着陸態勢に入る際に徐々に降ろしていきますが、フラップ制限速度以下になったためにフラップを下ろしたものの、その後制限速度を超過してしまったため警報が鳴ったというものです。

どちらかはわかりませんが、交信の背景に聞こえる警報は脚またはフラップによるオーバースピード警報の可能性が高いと僕は考えています。

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エンジン下部の擦り痕

最も謎なのがエンジン下部に擦り跡があること。下の写真が当該機の墜落直前の状態だと言われています。


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両エンジン下部に黒くなった跡が見えます。滑走路の映像を見ましたが恐らく2回バウンドして3回接触しています。(滑走路には3本に分かれて擦り跡が残っている)

何故、エンジン下部を擦ったのか。原因は脚が出ていなかったとしか思えません。しかも主脚(後輪)、前脚(前輪)ともにです。仮に前輪だけが出ていなければエンジン前部が擦れていすはずです。しかし擦れている部分はどちらかというと中央から後ろにかけて。この状況より主脚も前脚も出ていなかった可能性が高いです。

そもそも脚に異常があれば恐らくそれを示す交信があるはずで、異常がないとなればパイロットが脚が降りていないことに気付かず着陸をしてエンジンを擦ったとしか思えません。

管制官が墜落直前に「胴体着陸をするか?」と確認をしていますが、これは「1回目に胴体着陸をしようとしたのを見たため」と考えることもできます。

警報発生条件から外れた可能性

そもそも脚を降ろさずに着陸してしまうことがあるんでしょうか?

可能性はとしてあるのは、「降ろす操作をしたが出なかった かつ 降りた表示になっていた」、または「降ろすのを忘れた」かどちらかです。そして「降ろすのを忘れた」のは単純なミスではなく、オーバースピード警報が出たため、一旦脚を上げて再び降ろすのを忘れてしまったというパターンかと思います。(これが一番可能性があると思っています。)

しかし飛行機はそんなにバカではありません。もし脚を降ろすのを忘れたならば、GEAR NOT DOWNという警報が出てパイロットに気付かせてくれます。しかし今回はこの警報が出なかった可能性が考えられます。GEAR NOT DOWN警報の条件は以下の表をご覧下さい。


f:id:flyfromrjgg:20200527173907p:plain

(http://www.smartcockpit.com/docs/A320-Landing_Gear.pdf)

簡単に言うと、対地750ft以下で両エンジン回転数(N1)が75%以下ならば警報が出ます。または対地750ft以下でフラップが3かFULLならば警報が出ます。

この条件を否定すれば警報が出ない条件になりますので、対地750ft以下でも、少なくとも片方のN1が75%以上かつフラップが2だと警報は出ないです。この条件に入り込んでいた可能性が考えられます。

仮にフラップが2だったとすると、先ほどのオーバースピード警報と同じく、フラップを3にしていたものの、オーバースピード警報が出たためフラップを2に戻して警報を解除し、そのまま(フラップ2のまま)着陸してしまった可能性があり得ます。(フラップ3の制限速度は185kt)

ただ、理解できないのはN1が75%以下ならば警報が出るという点です、フラップ2でもどこかの段階で推力を絞りN1が75%以下になれば、警報が出ますのでその時点で脚が降りていないことは気付くはずなのです。

警報発生条件には穴がある

警報は本当に必要なときにだけ出るように設計されています。例えば高度だけとか単純な条件で出るようには設計されていません。着陸時にしか出ないように、「着陸とは飛行機がこんな形態になっている」と仮定して、それ以外の状態の時には出ない設計になっていることがほとんどです。何故なら意図しない警報はパイロットの集中力を削ぐからです。

下はGEAR NOT DOWNの条件の簡単な記述です。


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(https://hursts.org.uk/airbus-nonnormal/notes.pdf)

仮に高度だけを条件としたら、離陸して脚を上げると750ftを超えるまでGEAR NOT DOWN警報が出てしまいますよね。そんな不適切な警報を排除するため、「着陸とはこんな状態」というのを定義して警報発生条件を作っています。(赤線部分:電波高度が750ft以下かつN1とフラップ設定が”飛行機が進入状態”であることを示しているとき)

パイロットがその定義を逸脱するような操縦をすれば、警報が出ない条件に入り込み、脚が降りていないことに気付かずに降りて行くことも有り得るわけです。

警報は不適切な出力をなくす目的でかなり複雑な設計になっているため、変な飛び方をすると条件の穴に入り込む可能性があることを頭に入れておく必要があります。

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エンジン停止はAGBの損傷か

続いてゴーアラウンド後の飛行機の挙動ですが、指示された3,000ftまで上昇してその後、エンジンが停止していることから、エンジンを擦ってすぐの状態ではまだ十分な推力があったと考えることができます。そして徐々に推力が失われていったと考えられます。しかも両方同時に。

可能性として考えられるのはエンジンブレードの破壊や失火、燃料の供給停止などです。最初から燃料がなかったという説も考えられますが、それならば着陸前に気付くはずです。1回目の着陸前には何の緊急事態の宣言もありませんでしたので、燃料切れは想定しにくいです。

僕は、エンジンがド派手に壊れていない、火災が発生していないところから見るに燃料供給の問題が原因ではないかと考えています。

A320のエンジン下部には何があるかを見てみました。当該機のエンジンはCFM56-5Bというエンジンです。CFM56-5Bの下部にはアクセサリギアボックス(AGB)があります。


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(CFM56-5Bエンジン/Wikipediaより)

アクセサリギアボックスとは何かということですが、エンジンは推力を生むだけではなく、電源や油圧源、燃料ポンプの駆動源などになっています(付いている装置を補機と呼びます)。エンジンのことをパワープラントと呼ぶことがありますが、まさに電源、油圧、燃料、潤滑油など様々なパワーの源になっているんです。

エンジンの回転軸を駆動力として取り出し、アクセサリギアボックスにある歯車を回し各補機を動かして仕事をします。

アクセサリギアボックスをもう少しわかりやすく図示したものが下の絵です。


f:id:flyfromrjgg:20200527200252p:plain

(https://www.meti.go.jp/policy/tech_evaluation/c00/C0000000H24/121129_koukuuki/koukuu6-3-1.pdf)

この絵はA320のものではないと思われるますが、このようにエンジンの回転軸からパワーをもらって仕事をする補機たちがたくさん並んでいるのがアクセサリギアボックスです。

CFM56シリーズのエンジンは737にも搭載されているベストセラーですが、A320のエンジンと737のエンジンとの決定的な違いは、アクセサリギアボックス(AGB)の位置です。以下はWikipediaからの抜粋ですが、A320のアクセサリギアボックスは6時の方向(エンジンの真下)に付いていることが読み取れます。

In the early 1980s Boeing selected the CFM56-3 to exclusively power the Boeing 737-300 variant. The 737 wings were closer to the ground than previous applications for the CFM56, necessitating several modifications to the engine. The fan diameter was reduced, which reduced the bypass ratio, and the engine accessory gearbox was moved from the bottom of the engine (the 6 o'clock position) to the 9 o'clock position, giving the engine nacelle its distinctive flat-bottomed shape.

(CFM56の737解説部分 wikipediaより)

A320のエンジン下部の膨らみがある部分にはアクセサリギアボックスが入っており、そこを損傷したために燃料ポンプの動力が失われた、配管が壊れた等が考えられます。これにより少しの間(上昇する間)はエンジンが回っていたものの、燃料の供給が停止したためエンジンが停止したと考えることができます。

これについても推測の域を出ませんが、エンジン下部を損傷したらまずアクセサリギアボックスが損傷すると考えるのが自然であり、そこからエンジンを停止させる要因を探すと、燃料ポンプ系なのではないか?と考えられるわけです。

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正式な報告を待つ前に書く意味

冒頭にも断り書きをしましたが、ここまで書いてきたことは、あくまでも僕の推論に過ぎません。WEB上から取れる情報を基に、なんとかそれらしくなるようにロジックを組み立てたものです。

航空機のシステムはあまりに複雑なため、限定された情報からは、まず間違いなく正しい原因を推論することはできません。フライトレコーダーを用いて分析をすると、思いもよらなかった原因が必ず出てくるはずです。ここで書いたものが「全然違うじゃん」となることは間違いないです。

じゃあ何故書いたか。それは自分の推論がいかに間違っていたか、本物の事故報告書が出てきたときに検証するためです。交信記録、飛行経路、写真など、非常に限定されている情報から行った推論と本当の事故原因のギャップを知ることはそれなりに意味があると思っています。

僕はここまで書いたなら絶対に事故報告書を真剣に読むと思います。自分の推論が正しかったか知りたいからです。それをするためにここまで書いたのです。

(ぶっちゃけA320のシステムを調べ出したら止まらなくなったので、間違っていてもいいから全部書いちゃえと思って書きました。)

パイロットも玉石混交か

現時点で言ってしまうのはあまりよろしくありませんが、ここは単なる個人ブログですし、僕は国に「事故原因を調べろ」と言われた専門家でもないですので、好き勝手言わせてもらうと、

ちょっと操縦が乱暴過ぎない?

と思ってしまいます。異常な降下率で降下している時点で、何らかの事故を起こす可能性が高いわけですよ。下りの坂道を200kmくらいで爆走しているようなものです。「パイロットは高度に訓練されている人達だから飛行機は安全」と僕は常々思っているわけですが、「このパイロットはちょっとダメかもな」という印象を受けてしまいました。

管制との交信を聞いていると「なんかパキスタン航空には乗りたくない」と思ってしまいます。僕はパイロットは優秀な人達だと信じていますが、どんな職業にも優秀な人、優秀ではない人がいることを考えると、やはり航空会社や国民性によって玉石混交なのかなぁと思ってしまいます。

いや、本当の事故原因がわかるまで下手なことは言ってはいけません。今書いた感想もあくまでも個人的な推論であることをどうかご理解の上…。

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