本当に航空会社は全滅なのか
新型コロナウィルスが世界に伝播してから世界の航空需要は急減、どのエアラインも「あと何か月持つか」というところでギリギリ踏ん張っている状況です。特に国際線に関しては各国の入国制限もあり、飛ばしたくても誰も乗らないので飛ばせない状況が続いています。最近各国では感染者数が少ない地域同士でビジネス需要に限り入国を認める措置をとり始めていますが、元の需要に戻るには相当の時間が掛かると思います。
ここで問題を提起してみたいことは本当に航空会社は全滅なのかということです。つまり航空会社とは何か、航空輸送とは何かというところに行きつくんですが、、、まぁこの後の展開もあり、ちょっと意味深な書き方をしています。
僕は以下の記事で国内線から復活すると書いていますが、日本は比較的国内線が強い国であるにも関わらず、まだ緊急事態宣言が(ほぼ)解除されてすぐと言うこともあり、国内旅客ですら復活はままならない状態です。
日本のエアラインはやはり全滅なんでしょうか???
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航空需要は旅客だけではない
飛行機に乗るのは人。当たり前のことですが、実はそれは半分正しく半分間違っています。飛行機の上半分は人が乗りますが、下半分は貨物が乗ります。「それって乗客の荷物でしょ。」と思われる方も多いと思いますが、そこも半分正しく半分間違っています。もちろん貨物室には乗客の荷物しか載せないエアラインもあります。ピーチなどのLCCがその典型です。小型機やLCCではその傾向が強いです。しかし大型機では、乗客の荷物だけでは貨物室が余り過ぎるため、大手エアラインは乗客のものではない一般の貨物も一緒に運んでいます。
昔JAL CARGOと書かれた貨物専用機が貨物だけを積んで飛んでいました。しかしJALの破綻により事業を縮小。JALカーゴの貨物専用機はなくなりました。ところが今でもJALカーゴは存在しています。旅客便だけでも貨物事業は成り立つんですよね。今のJALカーゴはJAL機の貨物室で事業をしているんですよ。
旅客便が減ると貨物を運べない
という事情もありコロナの影響で旅客便が飛ばなくなったら大変なことになるんです。そう、これまで旅客機の下に入れて運んでいた荷物を運べなくなります。先にも書いた通り、世の中には貨物専用便というものもありますが、貨物専用機だけでは賄いきれないくらいの貨物需要が世の中にはあります。最近は国際線がパッタリ止まってしまったため、航空貨物を運ぶ担い手がいなくなってしまいました。旅客が多かった路線では細~く一日1便とか飛んでいる路線もありますが、そんな路線に限って貨物需要も多いんですよね。1日1便じゃ貨物需要を賄いきれないんですよ。(現在、定期便として旅客を載せずに貨物だけで飛んでいる便が多くあります。)
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貨物専門のエアラインが活況
そんなとき活躍するのが貨物専門の航空会社なんです。日本に一社だけありますよね。よく成田で見かけるこのロゴの会社です。
そう、日本貨物航空です。最新モデルの747-8を8機保有しており、アジア、欧州、北米にネットワークを持っています。
そしてFlightRadar24でNCAの運航状況を見てみると驚きの状況が浮かび上がってきます。特に旅客便が急減した3月から4月にかけて多くの臨時便を飛ばしているんですよ。
臨時便はをどう見分けるかというと、定期便にない便名が付いているというところなんですが、定期便は3ケタなのに対し臨時便は4ケタ便名。上海や香港、シカゴなどに4ケタ便名がたくさん飛んで行っているのがわかります。
(例:上海から成田への臨時便KZ5224便)
僕はFR24のシルバー会員のため3ヶ月前までしか過去の便を見られず、つまり2月以前の状況が見られないので、年間を通じた臨時便の動きは確認できませんが、それでも今年の2月と3月では明らかに臨時便の数が違います。旅客便の減便に呼応するように貨物便が増便されていることが見て取れます。
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NCAは日本郵船の子会社ですので細かい業績情報は開示されておらず、しかも航空事業は2019年度第三四半期までしか載っていませんので、コロナ禍が始まった2020年1~3月とそれ以降どうなっているのかは確認できませんが、恐らく業績は急上昇しているはずです。(2019年までは日米貿易摩擦の影響で業績は低迷)
なぜなら臨時便が増えたことに加えて、航空貨物運賃が上昇しているからです。少し古いですが、4月下旬の日経新聞にこんな記事が出ていました。
4月末の東京発上海行きのスポット料金は、1キロ当たり450~900円。2019年冬季の大口荷主向け長期契約料金、同180~290円に比べ、2.5~3倍に高騰している。急な輸送依頼や午前中の到着便などの場合はさらに高い。
航空会社からスペースを仕入れて貨物を積み合わせて運ぶフォワーダー(混載貨物事業者)は「時期によっては10倍に跳ね上がることもあり、過去最高の高値圏で推移している」と指摘する。
欧米路線も高値が続いている。東京発米西海岸の足元の料金は、平常時の5倍を超える。東京発欧州も同3~4倍を超える水準となっている。
航空運賃が3倍ってすごいですよ。売上高が3倍になるんです。しかも過去最高の高値圏だなんてもうウハウハじゃないですか!
さらに原油安が拍車をかけて、NCAは過去類を見ない好業績を叩き出しているのはずです。(ヘッジしていたら残念賞ですけど…。)
最近少し上昇傾向にありますが、原油価格に端を発する航空燃料価格はかなり低い水準にあります。旅客便でも何年かぶりに燃油サーチャージがゼロになりましたよね。
というわけで、日本のエアラインは全滅かと思いきや、貨物専用の航空会社であるNCAだけは儲かっていると思うわけです。
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ZIPAIRも貨物専用便で初就航
そんなことを考えていた矢先、衝撃の就航ニュースが飛び込んできました。JAL傘下の中長距離LCCであるZIPAIRが、旅客を載せずに貨物便として運航を開始するというのです。僕はこの鳥海高太朗氏の記事で初めて知ってむちゃくちゃ驚いたんですが、787の大きさならば貨物だけで運航しても何とか収益が出るため、このような形態もアリなんだと理解しました。
この件はNCAとは関係がないため単なる余談に過ぎませんが、航空旅客の需要が蒸発する中、NCAが活況なのもこういった事例からよく理解できますね。
旅客のリスクヘッジは貨物
航空システムは安定系
という思いを強くしたのでした。
(物理学などで安定系とは、釣り合いの状態からずれた場合に元の位置に戻す力ような力が働く系のことで、航空システムの場合、旅客需要が小さくなり収益が下がっても貨物需要が高まって収益を元に戻すような力が働いているという意味。)
旅客がダメなら貨物がある。航空界は実は全滅していなかったんです。
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