777Xのカーゴドアが吹き飛ぶ
初飛行が遅れている777X(777-9X)ですが、今度は静強度試験中(下記記事ではhigh-pressure stress test)にカーゴドア(貨物扉)が吹き飛んだとうことで試験自体が中止になるというハプニングが起きました。原因によっては設計変更が必要となり、設計変更がなくても貨物扉の取り換えが必要となりますので、スケジュールへのインパクトが大です。2020年中にデリバリーというのはかなり厳しくなるかも知れません。(ボーイング公式発表ではスケジュールへの重大なインパクトはないとのこと。)
(777-9Xの地上試験風景。Boeing Youtubeより。)
777Xの開発はただでさえ、エンジンの問題で遅れていると言うのにここへきてまたトラブルが発生してしまいました。MAX問題を抱え、777Xの販売不振に加えて開発中のトラブル続出というこの苦境。どうしてこんなに不幸なことばかりが起きるのか。最近のボーイングは完全に祟られています…。
JALのA350に乗って考えた
先日、777Xの先行きを懸念する記事を書きました。こちらです。今回はこの続きを書きたいと思います。開発遅延とか試験トラブルとか、それ以前に777Xの販売自体、先行きが怪しいんじゃないかな?と思い始めました。
それはJALのA350に乗ったことがきっかけです。777のリプレイスがA350であるという事実を目の当たりにし、僕は777Xの将来性について考えさせられてしまったのです。
777Xのオーダーから見えること
ここで777Xのオーダーを見てみましょう。(Wikipediaより)
これを見て驚くのは、中東勢、特にエミレーツが多いこと、逆に言えば中東以外の発注エアライン数が極めて少ないこと。そしてもう1つ重要な点はキャセイ以外全てA380のオペレータである点です。エミレーツはA380のリプレイスとして777-9Xを買うと断言していますし、他のエアラインもきっと事情は同じでしょう。
ブリティッシュエアもオーダーが多いですが、これは12機のA380と34機の747-400を合わせたリプレイスと考えるのが自然。ルフトハンザも747のリプレイスとして777Xを発注していると言われています。
つまり、今では777Xはその1つ上のクラスA380や747のリプレイスとして考えられているのです。(777Xは777よりもほんの少し大きいため、元々747や777-300ERのリプレイスが目的とされています。)
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777Xのコンセプトが今や曖昧
これまでの歴史の流れとして、777Xの前のバージョンである777-300ERも747のリプレイスとして買われてきた経緯があります。ANAでもJALでも747-400を早く退役させて、777-300ERで747を置き換えました。他のエアラインでもほとんどがその流れです。10年前から既に747を777-300ERで置き換える動きが進んでいたのです。ANAの747-400は退役し、
777-300ERが主役になりました。
ここで777Xの開発を進めてきたボーイングですが、747のリプレイスといっても747のオペレータは既に777-300ERを買っています。747は欧州のエアライン(ブリティッシュエア、ルフトハンザ、KLMなど)を除き今やほとんど残っていません。777Xをもって一体何を取り換えろと言うのでしょう?何だかコンセプトが中途半端に思えてきてなりません。
というわけで、今777Xを買いたいと思うエアラインはほとんどがA380のオペレータ。
A380のオペレータってエミレーツ以外は機数が少ないですよね。リプレイス需要があるにはありますが圧倒的に小さいです。
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それでも777-300(ER)のリプレイスが777Xとなるのですが、JALのように777-200のリプレイスをA350-900に選定するエアラインが多くなると、必然的に同じエアラインの777-300(ER含む)のリプレイスはA350-1000となります。パイロットのライセンスや整備/補給を共通化できるからです。つまり、777-200のリプレイスとして何を選ぶかによって777-300(ER)のリプレイス計画は大きく影響を受けるのです。200と300を両方持っているエアラインは多いですから。
JALのような例はたくさんあります。“A350 replace 777”でググると色々出てきます。
ベトナム航空が777-200ERをA350-900でリプレイス。ユナイテッドが777-200ERをA350-900、1000でリプレイス、フィリピン航空が777-300ERをA350-1000でリプレイス(するかも)、などなど。小型機737NGのリプレイスは737MAXというのが普通ですが、大型機777-200/300のリプレイスは777Xという構図には残念ながらなっていません。
最後にとどめを刺すのが航続距離と機体価格。
(A350-1000/Wikipeiaより:Clément Gruin (Wikimedia, CC-BY-SA 4.0))
A350-1000の航続距離は777-9Xよりも長く、値段もA350-1000の方が安いです。これでは777Xの勝ち目がない気がします。777XはA350と比べ性能面や価格面でも劣っています。これがまさに777Xのオーダーに現れていると思わざるを得ません。
(A350-1000の航続距離:8,700NM/16,100km、777-9Xの航続距離7,285NM/13,500km、いずれもAirbus、Boeingのカタログ値。リストプライスはA350-1000が約366mUSD、777-9Xが約420mUSD。ただし一点、A350-1000の航続距離は当初から伸びているためちょっと怪しいです。)
ちょっと話がややこしいのでまとめると、現在リプレイスはこんな感じで進んでいます。
- 747を777-300ERでリプレイス(少し前)
- A380や747を777Xでリプレイス
- 777-200/300をA350-900/1000でリプレイス
本当は777-200/300のリプレイスとして777Xを投入したかったんですが、今やA380や747のオペレータしか777X を発注してくれないんですよ。
こうなってくると777Xのコンセプト自体がよくわからなくなってきます。リプレイスする機体は何なのか、何を目的とした旅客機なのか。その辺りの前提が崩れている気がするんですよね。
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LCCは777化するのか
気になるのはLCCの動向。これからどんどんLCCが幅を利かせる時代が来るでしょうから、LCCがどんなワイドボディを買うかという点は気になるところです。エアアジア、ライオンエアなどが最近A330-900を相次いで導入していますが、彼らはもっと機材を大きくするんでしょうか?つまりA350や777Xを買うんでしょうか?
これに関して僕は「多分買わない」と思います。何故なら高いからです。A350や777Xはレクサスみたいな高級車なんですよ。それに比べてA330neoは大衆車。LCCは大衆車しか買わないです。
そしてこれが非常に重要なことです。「流動性」です。LCCは機材のかなりの部分をリースで賄っています。これがA350-1000や777Xだとしたら市場に出回る機体数が少なすぎて、リース会社はLCCへリースなんてできません。仮に借りられたとしても返されたときに次の借り手がいなければ困ってしまいますから。
と言う理由で僕はLCCがそれらのワイドボディを飛ばすということはないと思うのです。サイズ的に端っこの機体は数が少ないため、流動性の観点ではかなり不利と言えます。
流動性の問題はA380の失敗の一つとして過去の記事にも書いています。
ネットワーク外部性と言う言葉をご存知でしょうか?シェアの強いものがどんどんシェアを強い、弱いものがどんどん弱くなっていく性質のことです。MicrosoftのWindowsやOfficeがその代表例です。皆がWindowsやOfficeを使うため、その他の選択肢がなくなり、他のOSやオフィスソフトは売れません。大昔のVHSとベータもそうですし、最近ではFacebook、Twitter、Instagram、LineなどのSNSがそうです。mixiはほぼ消えてしまいましたよね。そして勝ち残ったサービスはより便利に進化していきます。
あの会社がA330neoを飛ばすならウチも、ならウチもということになり、LCCのワイドボディ機材は今のところA330(neo含む)に集中しています。リース会社としても市場に多く出回っている飛行機を買いたがるので、なおさら一極集中が進むのです。
逆にLCCが777を選べば、どんどん777が選ばれていくに違いありません。しかし残念ながら大型機として777を飛ばしているLCCはほとんどなく(日本近隣で言えば韓国のJINエアやタイのノックスクート)、A330が主流な情勢は変わりません。
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まとめ
僕が心配しているのは777Xの試験の状況ではなく、その先にあるセールスの問題、一体何機売れるんだろう?という点です。問題だと思うのは777-200のリプレイスが777XではなくA350-900であること。これはJAL以外のたくさんのエアラインが実績を作っています。そうなると777Xは777としては777-300ERのリプレイスにしかならず、性能面でも価格面でも優れるA350-1000という競合がいて苦戦を強いられるのです。このA350-1000を打ち負かせるかが777Xの成功の秘訣になるわけですが、最も端に位置する大型機とあって値段が高い上に流動性に乏しく、これから大口顧客となり得るLCCの機体候補にはならないでしょう。そうすると買ってくれるのはフルサービスキャリアの一部、それもA380を飛ばせるような大きなエアラインに限られるということになってしまいます。
最近の大型機であるA380、747-8は失敗作となっていて、777Xもそれに次ぐ大きさであることから、それらと同じ運命をたどってしまう気がしてなりません。「いや、あと5~6年経って777-300ERが古くなってきたら777Xの発注が入るのでは?航空需要はどんどん伸びるし。」なんて思っているところは正直ありますけれども、今この時点ではなかなかそんな未来も見通しづらいですよね。
もしかしたらマーケットを読み切れなかったのか?
まだ初飛行する前からそんなことを言ってはいけませんが、「今の」僕にはそう思えて仕方がありません。
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