イケてる航空総合研究所

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超大型機エアバスA380は何故失敗したのか【生産中止の真相を読み解く】

A380生産中止発表

昨日(2019年2月14日)、エアバスが巨人機A380の生産中止を発表しました。以前からA380は売れ行きが芳しくなく、いつ生産中止になってもおかしくないと思われていましたが、ついにその決定がなされてしまったようです。


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A380とはこんな飛行機。全エコノミークラスで800人が乗れるという全2階建ての旅客機です。ただ、800人乗りを採用しているエアラインはゼロで、大体のエアラインはこの飛行機を500人乗り程度のキャパシティにして運航しています。(A380の8は800人乗りの8から来ています。)

A380は欧州エアバス社が将来の航空需要の高まりを見据えて市場に投入した世界最大の大型旅客機です。しかしその生産は、300機足らずで終了してしまうことになります。300機という数字は多いようにも見えますが、採算が取れるにはもう少し売れないとダメでした。つまりA380は失敗に終わってしまったのです。

今回は何故A380が失敗に終わったのか、その真相を探っていきたいと思います。

ハブアンドスポークの失敗

今やボーイングと互角、いやそれ以上に戦える強さになったエアバス社が、会社の命運をかけて開発したのがA380でした。それは夢の超巨人機。誰もが航空大輸送の未来を思い描いた2000年前後のことです。

将来の航空需要の高まりからエアバス社は、今後航空輸送はハブアンドスポークが主流になると予測しました。


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ハブアンドスポークとは、大都市にある大空港同士(ハブ)を大型機で結び、そこから先の中・小都市(スポーク)へは中・小型機を飛ばすという運航形態のことです。A380は3クラスでも500人を運べますので、大都市間の大量輸送にはぴったりです。

大空港は慢性的な混雑を抱えているため、便数の増加は困難。だから超大型機で大都市間を結び便数を増やさずに需要の増大に応えます。そこから先は中・小型機で結べば、たいていの人が行きたいところに行くことができます。


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一方のボーイングはポイントtoポイントという、都市と都市をダイレクトに結ぶ方式が主流になると予想し、これまで市場に存在しなかった長距離を飛べる中型機787を投入しました。


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これまで長距離を飛べるのは燃料をたくさん積める300~400人乗りクラスの747や777などの大型機に限られましたが、787では従来の航空機システムを大きく変え、燃費の良いエンジンを搭載することで、250人乗りクラスの中型機でも長距離を飛べるように仕立てました。これにより、大型機では採算の取れなかった大都市=中・小都市間の路線を飛べるようになったのです。

結果どちらが勝ったか。それはボーイングの提唱するポイントトゥポイントでした。

もちろんハブアンドスポークがなくなったわけではありません。ハブアンドスポークは今でも大手エアラインの主流の運航方式になっています。

しかしそれ以上にポイントtoポイントの運航形態が増えました。主流ではあるものの、劇的にハブアンドスポークが流行ったわけではなかったのです。(要は程度問題です。)


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これにはLCCの存在が大きく影響しています。LCCの運航形態はほぼポイントtoポイントです。何故ならLCCでは単一機種、それも小型機による運航が主流だからです。

180席クラスの737やA320ではさすがにハブ空港間を輸送できません。自ずとポイントtoポイントになります。エアアジアXがA330という大型機を持っていますが、ハブアンドスポークと言うまでには成長していません。

また、大手エアラインでも中型機の787が飛ぶように売れ、これまでハブアンドスポークでしか飛ばせなかった小都市へもダイレクトに便を飛ばせるようになったのです。

エアバスの思惑は外れてしまいました。大手エアラインが需要増加を見越してこぞって買うと思われたA380は、各エアラインが他社の様子見をしているうちに戦略に見合わない機体になってしまいました。

現実問題として、A380の需要に合う路線は多くなく、しかも空港にもボーディングブリッジなどの専用の設備が必要ということもありコストが掛かるという問題もありました。

多少機体が小さくても中型機による多頻度運航の方が便利なため、エアラインはそちらに走ったという理由もあります。昼に1本より、朝昼晩1本ずつの方が便利ですよね。

また、空港混雑への対策としては、滑走路の増設やターミナルビルの新設、セカンダリ空港(その都市の第二の空港)の活用で何とかなってしまっているという現実もあります。

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中古市場の重要性

ここからはA380の持つ特殊性について語りましょう。

中古市場がない機体

続いて挙げられる失敗の原因はA380には中古市場がないということです。

大手エアラインは、ある程度の年数使用した機体を売り払い、そこで得た資金を新型機材を購入の一部とすることがあります。そして、あまり裕福はないエアラインはそれらの中古の機体を買っていきます。

中古市場で売るアテがあればエアラインは大型機の購入に積極的になることができます。失敗したら売り払えばよいからです。しかしA380はこれまでのどの飛行機よりも大きく、そのサイズの機体の中古市場がそもそもありませんでした。一方、737やA320のサイズであれば、既に中古市場が成熟しているため売買が盛んです。

しかも中古市場で買っていくのは大手ではなく、資金に余裕がない中・小エアラインです。そんなエアラインがA380のような大型で高級な機体を購入するでしょうか?

A380を運航できるのは、世界のメガキャリアと呼ばれる一握りのエアラインだけなんです。そもそもマーケットが小さい上に値段が高い、そして満席にして飛ばせるかどうかわからないような巨人機なんて誰も中古で買ってくれません。(ただし、一部シンガポール航空のA380は中古市場で買われた実績があります。)

市場で回って行かない飛行機は怖くて買えないのです。

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資産としての魅力欠如

また、近年では航空機リースという方式が盛んです。リース会社は航空機メーカーから新品の航空機を購入し、利用料を取ってエアラインに航空機を貸します。要するにレンタカーと同じです。そして、中古機として売り払うことで投資資金の回収を図ります。リース会社にとって航空機は不動産のような投資資産でしかなく、貸せるアテ、売れるアテのない航空機はあまり買いません。


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リース会社は787や737、A320など売れ筋の飛行機ならば大量購入を行います。最近の飛行機のオーダーはリース会社が背負っていると言っても過言ではありません。リース会社が百機単位でオーダーする時代になりました。それだけリースという方式は盛んになりつつあります。

しかしA380ではリース会社はあまり食指を動かしませんでした。もちろんリースのA380はありますが、737やA320に見られるような大量発注はありませんでした。さすがにリース会社もどう中古で売ろうかとためらいますよね。

例えば不動産で言うと、(日本では)一戸建てに投資するよりもマンションに投資する人の方が多いですよね。あれはマンションの方が中古市場が厚いからです。売買が盛んな、つまり流動性の高い資産が買われるのです。

貨物機として生き残れない

中古市場と言えばもう一つあります。旅客機は古くなると貨物機に改造されることがあります。747や767などはその際たる例で、コンバートフレイターと呼ばれています。中古市場として貨物機への転用も一つの生き残り方なんですが、A380には貨物型もなければ貨物機にコンバートする需要もありません。

747のように機体前部が開かないことが大型貨物機としての魅力をなくしてしまっているんです。機体前部が大きく開けば、長いものを搭載することができますが、横の貨物扉だけではせいぜいコンテナやパレットくらいしか積むことができません。

かつてFedexがA380の貨物型を発注しましたが、いつしかキャンセルされてしまいました。使い勝手が悪いと考えたのでしょう。A380は旅客機が捨てられる前に辿る貨物機という余生にも見放されてしまった旅客機なのです。

747は元々、失敗したら貨物機として売ろうとコックピットを2階に作りました。それ故、今でも貨物機として活躍している飛行機がたくさんいます。A380はそれすらできない可哀想な飛行機です。

中東時代の終焉

最後はA380のいびつな購入者バランスについてです。なんとA380はその半数をアラブ首長国連邦(UAE)のエミレーツ航空が買っています。


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受注した約300機のほぼ半分である162機がエミレーツ航空からの発注です。つまり、A380の商売はエミレーツで持っていたと言うことになります。エミレーツのふところ事情次第でA380はガタガタと崩れる構造にありました。

今回エミレーツのA380の大量キャンセルが生産中止の引き金になったと思われるわけですが、背景には中東パワーの失速があります。一時期オイルマネーに沸いた中東地域ですが、シェール革命により原油の枯渇懸念が薄れたことや、原油価格が予想以上に上昇しないことなどから、中東などの産油国にとっては誤算が続いています。

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要するに「中東が貧乏になってきた」と言うことです。エミレーツ航空はドバイ首長国のエアラインのため、石油依存度は小さいとは言え、中東パワーの失速は全体の経済力に影響を与えているのです。同じUAEのエティハド航空(アブダビ首長国)はもっと低迷しています。

アメリカがシェールオイルの生産国、そして輸出国になることにより、中東偏重の石油の勢力図を塗り替えようとしていることが非常に大きく影響しています。かつて石油だけで食べて行けると言われていたサウジアラビアが脱石油に向けた経済改革をしていることからも中東のパワーバランスの変化が伺えます。

A380はそんな中東の失速に巻き込まれてしまったというわけです。「卵は一つの籠に盛るな」というのが投資の大原則ですが、1つのエアラインに頼る厳しい運命がA380には待ち受けていたと言えるでしょう。大口顧客であるUAEの大量キャンセルにより、A380はその生産の短い幕を閉じてしまったのです。

個人的には大好きな飛行機

と、少々悲しい話になってしまったのですが、明日からA380が飛ばなくなるわけでもなく、これからANAにも新しいA380が導入されるので、即座に今回の生産中止が僕ら航空マニア達の楽しみを奪うわけではありません。どうかご安心下さい。

僕もA380は大好きな飛行機で、過去、色々なエアラインのA380に乗ってきました。特に思い出深いのがやはりエミレーツのA380ですね。ちゃんと正式な運賃を払ってファーストクラスに乗った唯一のA380です。過去の記事はたくさんの人に読んでもらっています。

また、中国南方航空のA380もファーストクラスに乗りましたが、エミレーツには劣るもののキャビンは貸し切り状態。すごく良かったです。その他大韓航空のA380もかなり好きな部類です。アッパーデッキ全てを占めるビジネスクラスは圧巻でした。以下の各エアラインのA380の搭乗記貼り付けましたので、そちらをご覧下さい。

窮屈な737やA320とは違い、A380は僕らに空の旅の優雅さを改めて教えてくれた飛行機でした。思い出深いA380が失敗作だったなんてあまり思いたくないですね。

A380は世界の空をまだまだ飛び続けますので、生産中止のニュースにあまり悲しまず、これからもA380を応援していきたいと思います。


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