イケてる航空総合研究所

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ピーチのパンク事故、90度横を向いた前輪が大事故を防いだ?

ピーチの前輪がパンクした

2018/3/24(土)に福岡空港で発生したピーチA320のパンク事故。そんなに話題にはなっていませんが、ピーチとバニラの統合報道の直後だったので、何となく目に留まった人もいるのではないでしょうか?

あの事故、ただのパンク事故ではないという認識を僕は持っています。「前輪が90度横を向いていた!何事だ!あり得ない!」と叫びたくなるような事故です。

ただ、前輪の向きの異常性を大きく取り上げている報道はほとんどなく、前輪の向きに関しては「なお書き」程度、むしろ「福岡空港は過密だ」とか「前輪のパンクは珍しい」とか若干的外れな方向に報道が行っています。ピーチが無意味に叩かれていないのは救われていますが、問題の本質と航空機の設計の上手さについて言及されていないのは残念ですね。

これを見て下さい。


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(The Aviation Heraldより)

真っ直ぐ前を向いているはずの前輪が真横を向いています。(写真左が機首方向)

今回はこの「A320の前輪が90度横を向く事象」について解説をしたいと思います。ただし、まだ原因やメカニズムが不明なため、今回は一部に推測が入る内容となることをご了承下さい。

パンクは結果に過ぎない

初めに断っておくと、今回のピーチのパンク事故は、パンク自体が事故の本質ではなく、前輪が真横を向いてしまったことが事故の本質です。パンクはあくまでも結果に過ぎません、前輪が横を向いたため、結果的にパンクをしてしまっただけです。

ジェットブルーと同種の事故

この事故にデジャブ感を持っている方は多いはずです。過去にも同種の事故がアメリカで起こりました。ジェットブルーA320の事故です。

2005年9月21日、米カリフォルニア州ボブホープ空港を離陸しギアを引き込もうとしたところ、ギアのトラブルを示す警報が点灯しました。続いてギアレバーを下げたところ、今度は前輪が真横を向いて固着してしまいした。

ジェットブルー航空292便緊急着陸事故 - Wikipedia

A320は燃料の投棄ができませんので、数時間のホールディングで燃料を消費し、機体を軽くしてロサンゼルス空港に緊急着陸しました。前輪が横を向いているため、前輪の接地直後にタイヤはパンク、そのまま摩擦熱でホイールまで削れてしまいました。しかし死者、負傷者はゼロ。不幸中の幸いでした。

前輪だけが方向を変えられる

飛行機が地上でどうやって旋回しているのかご存知でしょうか?飛行機は前脚と主脚を持っています。前脚は機首の先の付いている脚、主脚は翼の付け根付近に付いている2つの脚です。基本的に飛行機は3点で接地しています。

地上で方向を変えるとき、前脚だけが左右に曲がります。コックピットにティラーハンドルと呼ばれるハンドルがあり、それを動かすことで前脚の方向を変え、地上で旋回を行います。基本的に油圧による作動です。油圧がなくなるとハンドルが切れなくなり、方向の制御はできなくなります。

ちなみに、速度が出てラダーで方向制御ができるようになったら、ティラーハンドルは使えなくなり、飛行機の方向はラダーペダルで制御するようになります。なお、小型機では速度によらずラダーペダルで前脚を動かすものもあります。

前輪が真横を向くのは意図的である

ジェットブルーの事故で前輪が90度真横を向いてしまった経緯を簡単に説明します。ここは理解が難しいところなので、「前輪が真横に向くような故障状態になることがマニュアルに書かれている」ということが理解できればよいです。

ジェットブルーの事故では、とある原因により前脚が故障し、離陸後のギアアップ時にセンターよりも少し角度が付いて格納されようとしました。その状態になると、「L/G SHOCK ABSORBER FAULT」(ショックアブソーバー故障)という警報が出ます(なぜ出るかは難しいので省略)。


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(A320操縦マニュアルより)

ショックアブソーバーとは前輪への振動を吸収してくれる装置のことです。ビヨンビヨンと上下に動くやつと考えて下さい。

今度はギアを降ろしたとき、ロックや格納扉の作動シーケンスがずれてしまいました。


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(A320操縦マニュアルより)

作動シーケンスがズレるとコンピュータは「なんか変だ」と判断し、2つ目の警報として「WHEEL N/W STRG FAULT」(前脚ステアリング故障)を出します。(なぜそうなるかは難しいので省略)。それとともに油圧が切られました

この2つの警報が出るとどうなるか。マニュアルには「前脚はセンターから90度回転する」と書かれています。しかも、この状態になった場合「着陸時、可能な限り前輪を遅く接地させよ」と書いてあります。

マニュアルの記述から、この故障モードに入った場合には前輪を意図的に90度に向けていることが読み取れます。「トラブルが起こった場合は90度横に向けるから、あとはゆっくり接地して被害を最小限にしてね。」という意図が感じられるのです。

ギアの設計がすごい

なぜこんな故障状態に陥るのでしょう?なぜ90度横向きにする必要があるのでしょうか?ステアリングが動かなくなったら0度(センタリングした状態)で固まるようにしたらダメなんでしょうか。

なぜセンタリングさせられないかは簡単です。油圧が入らないからです。油圧によってセンタリングさせているため、それができないのです。だから90度にするしかないんですね。他の角度にしたら、接地した瞬間にあらぬ方向に進んでしまいますから…。

90度にしてしまえば、脚は壊れるかも知れませんが、飛行機が左右に振られることはありません。なお、90度にするためには機械的な仕組みを使っていると思われます。油圧を使わなくても自動的に90度に振れるようになっているのでしょう。

このあたりの設計は本当によく考えられていると思います。事故の状態を見ると反射的に車輪が真横を向くなんてなんてあり得ない!と考えてしまいますが、よく考えてみると0度で固着させられなければ、90度に固着させるのが一番安全なんですよ。

このように飛行機では、装置が故障した場合には最も安全な側に動作するという思想が様々なところに組み込まれています。

安全設計が大事故から救った

ちなみにピーチの事故は、ジェットブルーとよく似ているとは言え、今の段階ではなんとも言えません。しかし、前輪が90度横を向いたという点では同じであり、ステアリングに関する何らかの安全機構が働いたと見ることができます。

という目であの事故を見れば、ピーチの事故は前輪が90度になったことで、大事故を免れたと考えることもできるでしょう。もし90度ではない角度で固着していたら、また、イスのキャスターのように自由に動いてしまっていたら、滑走路を逸脱し他の航空機と衝突していたかも知れないのですから。

今回の事故は、重大インシデントであることには間違いないですが、僕は、エアバスの安全設計が単なるパンク事故で済ませてくれたと考えています。

これ以上のことは運輸安全委員会の報告を待ちたいと思います。(2年くらい掛ってしまいますが…。)


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