イケてる航空総合研究所

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パキスタン航空A320の墜落原因が「コロナの話に夢中だった」なんてどこにも書かれていないから気を付けて。

まずは事故の概要から

5月22日にカラチで墜落したパキスタン航空A320の初期報告書(Preliminary Report)が出ました。本ブログでも墜落直後に墜落原因について色々と推定してみたんですが、ひとまず事故原因の概要がわかりました。

お時間のある方は先に以下の記事を読んで頂きたいのですが、やや専門的な内容を含みますし推測の部分が多いため、事故の概要を書いておきます。

flyfromrjgg.hatenablog.com

パキスタン航空PK8303便、A320(AP-BLD)は到着地であるカラチの空港に向け、通常では考えられない降下率で降下を始めます。管制官からの助言(旋回して徐々に高度を下げる)をほぼ無視して、何とか空港手前まで降下してきました。事故機は着陸態勢に入ったものの、脚(車輪)が出ていませんでした。しかしそのまま滑走路への進入を続け、エンジン下部を擦ってゴーアラウンド(着陸やり直し)をしました。その後、一定高度まで上昇するものの、両エンジンが停止し空港に戻ることなく市街地に墜落しました。

この不可解な事故の原因について述べた報告書が出たため、数日前から数多くの報道がなされています。代表的な日本語のニュースと英語のニュースを以下に載せておきます。

mainichi.jp

www.bbc.com

上記のニュースでもその他のニュースでも、大勢を占めているのは「コロナの話に夢中で墜落」、「ヒューマンエラーが原因」、「パイロットの自信過剰」という事故原因です。

一方、報告書を読んでみると上記の言葉は一つも出てきません。(以下に報告書のリンクを貼っておきます。)

すごい違和感

を覚えます。


f:id:flyfromrjgg:20200627214809p:plain

https://www.caapakistan.com.pk/Upload/SIBReports/AAIB-431.pdf

ニュース記事で大きく取り上げられているのは主にAviation Minister(航空大臣?)の発言であり、報告書の内容はほんの少しです。

そこで今回はまず報告書から見える事故原因、続いて、報道(大臣発言)への違和感、最後に最終報告書を待つ重要性について述べたいと思います。

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一度下げた脚を上げていた

この事故で僕が最も気にしている部分が、「着陸するのになぜ脚(車輪/ギア/Gear)を降ろしていなかったのか」という点です。


f:id:flyfromrjgg:20200626221206p:plain

報告書のグラフを抜粋したものですが、実は事故機は、7,200ftを通過した頃(空港から約10マイル地点)に脚を下げている(Gear Down)んです。しかし高度1,700ft付近の着陸まで5マイル地点で再びギアレバーを操作して脚を上げている(Gear Up)ことが判明しています。


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Gear Up直前の速度を見ると260ktに達しており、脚下げ状態の制限速度である280ktを超えるのを恐れて脚を上げたと考えることもできます。もしくは、脚を降ろしても良い速度が260kt(超えているとメカ的に降りない速度の意)であるため、そのことを気にしていたとも考えられます。(A320の操縦マニュアルより)

しかもフラップ1が設定されており、フラップ1の制限速度は230ktなので、オーバースピード警報は確実に出ていたと考えられます。それを脚のオーバースピード警報と間違えて脚を上げた可能性も考えられます。

ただ、そのまま脚を下ろさずに着陸しようとすると「GEAR NOT DOWN」(脚が降りていない)という警報が発せられ、パイロットに注意を促すことになっています。僕は前回記事でもそこに注目をしていました。もしかしたら警報が出ないような条件に入り込んでいたのではないかと思ったんです。

しかし事故報告書では「GEAR NOT DOWN」警報は発せられていたと述べられています。パイロットは何らかの意図を持って脚を上げ、しかも警報が出ているのにも関わらず着陸を決行したことがわかります。

すごく不可解です。

そんなこと起こり得るんですかね?「GEAR NOT DOWN」警報が出ているのにも関わらず、着陸を決行するんでしょうか?

報告書ではCRM(Crew Resource Management)と呼ばれるクルー間の協調ができていなかった点が指摘されているため、相互確認を怠っている可能性が高いですし、報告書には「オーバースピード警報」や他の「地上接近警報」が出ている状態だったと書いてあるので、「GEAR NOT DOWN」が見落とされた可能性も考えられます。ただし、その辺りの考察は初期報告書では一切述べられていません。

というように、着陸前に脚を上げた点「GEAR NOT DOWN」警報に気付かなかったかも知れない点に関する議論の余地はかなり残されており、慎重に分析を行う必要があります。

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報道(大臣発言)への違和感

しかしながら、前述の通りAviation MinisterのKhan氏は「コロナの話に夢中」、「ヒューマンエラー」、「自信過剰」という報告書にない言葉で事故を語っています。

大臣ともあろう方が報告書にないことを本当に話しているんでしょうか?仮に本当に話しているとしたら、きっと彼はボイスレコーダーを全て聞いているはずなので、コロナの話に夢中だったことは恐らく事実だったのでしょう。ヒューマンエラーがあった点や自信過剰だった点についても事実の可能性は高いです。

しかし正式な報告を待たずして、自分が知っていることや私見を記者の前で話しちゃうんでしょうか?その辺りはパキスタンというお国柄なんでしょうかね?少なくとも日本人、いや、一般的な先進国の考え方からするとちょっと疑問が湧きます。

さらにこの初期報告書の直後には、パキスタンのパイロットの40%が不正免許だったという報道も出ており、パキスタンの空の信頼は完全に揺らいでいます。大臣は何か悪意や他の意図を持って事故原因を語っているようにも思えてくるのです。

自国の飛行機を乗り入れ禁止にしたいのか、それとも世界の国の安全を自分が守ったというお手柄を手にしたいのか。真相はよくわかりませんが、何か妙な違和感を感じずにはいられません。

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早すぎる結論は禁物

毎回航空事故に関する報道があると思うことなんですが、今回も報道を鵜呑みにしてはいけないと言うこと。事前に内容を点検できない(という性質を持つ)人間の発言にはどうしても私見や印象操作などが入るため慎重に聞かないといけません。報告書に書かれていない事実については特にです。

コロナの話に夢中で墜落

このまま行けば「パイロットがバカだった」にしかなり得ません。その軽い結論が怖いんですよ。それを普通の人達は信じてしまいますので。

おしゃべりが原因、単なるヒューマンエラー、それだけで片付けてしまうと、今回のケースのように「なぜ降りているギアを一旦上げて、なぜ警報にも気付かなかったのか」という重要な点がうやむやになってしまんです。

グラフを再掲しますが、


f:id:flyfromrjgg:20200626224741p:plain

パイロットが本当にバカならば速度が260ktを超えそうなところでタイミングよくギアを上げるでしょうか?僕は「おっ?ここには何かあるな!」と思えてなりません。

今回の事故のキモはそこだと思うんですよね。

もしかしたら、再び同じ事故を起こす原因がそこに潜んでいるのかも知れません。飛行機事故は同じ原因で起こるものだからです。

例えば「おしゃべり」を「管制官との交信」に置き換えてみると、真面目なパイロットでも同じ事故を起こす可能性が見えてきます。何らかの要因で降ろしたギアを上げざるを得ない状況になり、そのときたまたま管制官との交信に忙しく、意図しない警報が複数同時に発生したら同じ事故が起こってしまうからです。

だから「コロナの話に夢中」で済ませて欲しくないんですよね。

この便のパイロット2人が不正にパイロット資格を取得しており、1回目の着陸直前までおしゃべりに夢中だったなんて誰も言っていないしどこにも書いていないんです(大臣もおしゃべりをしていた時間までは触れていない)。

でも人間は関連する報道から勝手にロジックを組み立ててしまうんですよ。「ああ、どうせ不正資格のパイロット2人がおしゃべりに夢中で墜落しちゃったんだ」と。

実際のところはTwitter界隈で噂されているように「パキスタン航空には乗るな」とか「PIAというパキスタン航空の3レターコードはPerhaps I Arrive(多分到着する)の略」なのかも知れませんが、僕はもう少しちゃんと墜落に至る過程を分析してから結論付けたいと思います。

(僕もまさか200ktで、しかもオーバースピード警報が出ているような状態で着陸しようとしていることはバカだと思いますが、まだ分析すべきことが残されてるだろうという観点から言っています。)

100人弱の命を無駄にしないためにも、拙速な結論を急ぎたくありません。そして先入観を持たず中立的に事故原因が分析されることを願います。

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