10年でどちらに振れるか
先回記事ではエアラインに今就職しない方がいいという内容の記事を書きましたが、航空業界が今後どのようになっていくか、不安でもあり楽しみでもあります。10年経ったら、
もっともっと多くの人々が航空旅行を楽しむようになっている。
はたまた10年経ったら、
旅客便はこれっぽっちしかなくなって、飛行機は貨物輸送のための乗り物になっている。
今後そのどちらかに振れて行くと思います。先日観たテレビで、Yahoo!CSOの安宅氏が、(ソーシャルディスタンスの観点から)「エコノミークラスはなくなる」と言っていたのが印象的でした。
今後、急速に、そして世界標準的に衛生意識が高まれば、感染症の観点からは現在のエコノミークラスはかなり危険なゾーンになり、そもそもエコノミークラスが成り立たないことになります。例えば3人掛けの中央席を空けるというアイデアもありますが、IATAは中央席を空けることに関し非常にマイナスが大きいと発言しており推奨しない姿勢を表しています。
航空会社にとってはビジネスクラスが稼ぎ頭と言われていますが、今後はテレワーク、テレコン(電話会議)の普及により、航空機のビジネス需要は確実に落ちて行きます。となるとエコノミークラスの搭乗率がカギとなります。エコノミークラスの存続が今後の航空旅行業界を左右するのです。
9.11後の復活には3~4年
そんなエコノミークラスがこれからも存続できた場合、これまでのように航空旅行が楽しめる日がやって来ます。先回の記事で9.11のテロ(2001年)後に航空需要が落ち込んで元に戻るまでに3~4年掛かったということを書きました。その絵をもう一度示しておきましょう。
RPK(有償旅客キロ)ベースで回復には2004年くらいまで掛かっています。
このコロナが収まったら、きっと9.11テロ後のような状態になると思うんですよ。もちろん、9.11よりもずっとずっと深い谷になると思います。
IATAでは国際線が2019年の水準に戻るには2024年まで掛かると予測していますが、ほぼ米国だけで起こったテロですらそれ以前の水準に戻るのに3~4年掛かっているんですから、今回の回復期はそれ以上になるのではないでしょうか?
なお、今回のコロナショックはよくリーマンショックと比較されますが、上のグラフからも分かる通り、航空界に限っては業界を震撼させた9.11テロと比較するべきだと僕は考えます。(リーマンショック後のRPK落ち込みは比較的小さい)
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面白い時代がやって来る
ところで。約20年弱前の9.11テロ後の落ち込み期間にANAがどんなことをやっていたかご存知ですか?
多分、若い方は知らないと思います。20歳前後の人は絶対に知らないです。一方で35歳以上の人で子供の頃から航空業界に興味があった人はよく覚えているのではないでしょうか?
僕はあの頃のANAが一番面白かったと思っています。写真は2004年のものです。まだ全日空の文字が機体に残っています。国際化に向け(特に中国)、「一日中空(カラ)」を意味する「全日空」の文字をなくし、「ANA(エーエヌエー)」ブランドに統一を図っていったのもあの頃です。
あの頃、テロ後の需要落ち込みでJALとJASが経営統合したんですよね(2002年10月)。
そんな背景もあり、ANAはとても挑戦的であり、変な言い方をすれば「奇怪」な策ばかりを打ち出して僕らを楽しませてくれました。「打倒JJ連合(JAL JAS連合)」なんて言いながら頑張っていました。(その結果、本当に打倒してしまいましたね。)
またそんな時代がやってくると思うんです。言ってみれば不況なのであまり歓迎すべきことではありませんが、不況だからこそ、見たこともないような面白いアイデアで僕らを楽しませてくれると思うんですよね。
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ANAの奇怪なキャンペーン
あの頃、まずやったのがキャッシュバックキャンペーン。なんと50人に1人アタリの航空券が出るというものです。自動チェックイン機を使った方法で搭乗券を発行すると、普通とは違う色の航空券が出てきて、それを持ってカウンターに行くと運賃が戻ってくるキャンペーンでした。僕は残念ながら当たったことがありません。
ちなみに説明にも「米国テロ事件の影響により旅客需要が減退している中、、、」なんて書いてありますよね。やはりこの頃は航空業界にとって非常に苦しい時代だったんです。
その第二段がこれ。
今度は50便1便アタリが出るキャンペーン。当たると乗客全員が1万円もらえるというすごいキャンペーンです
このキャンペーンでも僕は一度も当たりませんでした。やはり1/50の確率は難しかったです。しかし「当たるかも」という心理がANAを選ばせることに繋がったことは確かでしょう。
このキャンペーンには心理的な仕掛けがあります。「全員2%割り引きます」とするよりも「50人に1人当たります」とした方が消費欲が上がるんです。同じキャッシュバックでも全員一律ではなく特別を用意する。これが効いたんだと思います。
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悪名高き一日乗り放題
さらにANAの攻めの姿勢は強まります。この運賃、出た時はすごくワクワクしましたが、やってみたら大失敗したという悪名高きキャンペーンです。今後二度とやらないでしょうね。1万円で一日乗り放題というキャンペーンです。1日何区間乗っても、どんな経路で乗っても1万円。これは乗り派のマニアがヨダレをたらしちゃうような内容でした。もちろん使いましたよ。
僕は福岡から名古屋に帰るのに、福岡→羽田→稚内→丘珠→函館→名古屋と乗りました。5区間乗って1万円。朝7時に福岡を出て20時台に名古屋に着いた気がします。むちゃくちゃしんどかったのを覚えていますが、楽しかったです。
しかしこのキャンペーンは爆弾を抱えていました。1便でも遅延すると次の便に乗り継げなくなるのです。
初回から3回は何とか大事にならず過ぎて行きました。もちろん小さなトラブルはあったと思います。しかしあまり表面化はしていませんでした。
しかし問題の3月1日。管制システムのトラブルが発生し、朝から全国で飛行機が一時ストップしました。地上の航空機は離陸できない事態に陥りました。僕はこの日、福岡→成田→仙台→成田→福岡と飛ぶ予定で旅程を組んでおり、朝早く成田行きに乗り込みました。
しかし僕の便は見事に離陸できず、大幅に成田到着が遅れ、成田に着いた頃には仙台行きは出発済。4区間ですが往復旅程だったため、そのまま夕方の福岡行きまで待って帰りました。クレームを付けたら全額払い戻してくれました。
成田でゴタゴタやっているとき、大阪から成田に到着した便があるのですが、カウンターでは怒号が飛び交っていました。ANAは何も悪くなく、管制システムが悪いんですが、これを企画した責任というものもありますので、それはどんなトラブルであれ、ANAが対処しなければなりません。
被害に遭ったのは乗客と思いたいですが、一番の被害者はANAの地上係員だったと思います。ひたすらマニア達のクレーム、別便の手配、払い戻しなどに対応。朝からトラブルが発生したため、夜遅くまで遅延は続き、地上係員にとっては悪夢のようなキャンペーンだったことでしょう。
でもトラブルがなければ本当に面白いキャンペーンでしたね。
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片野坂社長ならやってくれる
で、前述したキャンペーンなんですが、今のANAホールディングス社長の片野坂氏がまだ若かりし頃、現場を引っ張っていた頃に自ら陣頭指揮をとってやっていたキャンペーンらしいんですよ。「なるほど、このお方ならやりそう」と思いました。(他のソースからではなく直接ご本人からお聞きしたので間違いないです。)あの奇怪な企画は今の社長が考えていたんです。何にでも挑戦する、面白いことを結果に囚われずやってみる、ANAにはそんな風土が根付いていると僕は思っています。
A380をカメ(Flying Honu)にする作戦もとてもANAらしいと思いました。「スカイマークのお荷物を引き取ってしまった」とネガティブにならず、ハワイ専用機として打倒JALを目指してマーケットを切り開く姿勢はまさにANAのDNAなんですよね。
JALはやめてしまいましたが、今やっているプレミアムポイント2倍キャンペーンはANAが発案したものです。自粛期間中の修行(不要不急の搭乗)を促すと言って賛否両論あるものの、そんなところからもテロ後に見られたようなANAのチャレンジ精神が垣間見れます。
だから、コロナが終息したら需要を掘り起こすために特にANAは何か奇怪な策をとってくると思うんです。今回の需要落ち込みは9.11の比にはならないと思いますので、それはそれは壮大なキャンペーンを打ってくるんじゃないかと期待しています。
その時をゆっくり待ちましょう。3年後くらいになるかも知れませんけどね(焦)。
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