イケてる航空総合研究所

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JAL機のエンジントラブルの件で受けた質問に答える。【飛行機が片発でも真っ直ぐ飛べる仕組みがわかる!】

先日のJAL機エンジン出火の緊急着陸の記事、たくさんの方に読んで頂きましてありがとうございました。「飛行機は安全な乗り物である」ということを多くの皆さんに伝えることができて本当に嬉しく思います。

さて、記事が拡散される中で、たくさんのコメントや質問を頂きました。ほとんどまともに答えられていませんので、新しい記事を一本立てて解説したいと思います。事故の件はやや旬を過ぎてしまった感はありますが、せっかくなのでこの機会に書いておきたいと思います。純粋に飛行機の仕組みがわかる記事として読んでもらっても結構です。

なぜ片発で真っ直ぐ飛べるのか

この質問、何人かの人がひとりごとのようにつぶやいていました。この質問の答えは「空中」か「地上」かで違います。

まずは「空中」の話からしたいと思います。

エンジンが片発停止すると、飛行機は推力のバランスが崩れて、故障したエンジンの方向に旋回しようとします。それは作動しているエンジンの方が前進するため、前進した右翼の揚力が大きくなるからです。

絵で表すとこんな感じです↓ (絵が下手でスミマセン。)

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放っておくと左旋回するのですから、右に少し戻すような舵を当ててやれば、とりあえず飛行機は水平を保てます。主翼のエルロン(補助翼)と呼ばれる部分を操作します。操縦かんを少し右に回せばよいのです。それでも非対称推力の影響で機首を左に振ろうとするので、今度は垂直尾翼のラダー(方向舵)を右に切ります。具体的には右のラダーペダルを踏みます。

具体的にこの絵でなんとかご理解下さい。これが理解できれば、飛行機が旋回する仕組みや、機首を振る仕組みが分かります。

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(↑翼の曲げ方と揚力の向きに関する説明)


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(↑飛行機が旋回する仕組み)


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(↑飛行機が機首を左右に振れる仕組み)


エルロンとラダーを操作することで、片発時でも飛行機は水平を保ち、真っ直ぐ飛ぶことができるんです。実際は、操縦かんやラダーペダルを操作し続けるのはしんどいですので、エルロンやラダーの中立点をエルロントリム、ラダートリムというノブで調節してやることで、手放しでも水平飛行を保つことが出来るようになっています。

ただ、完全に真っ直ぐに飛ぶ必要があるかと言いますと、実は実は、上空では真っ直ぐ飛ぶ必要はないんですよ!(乗客の快適性を保つため横に水平である必要はあります。)

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このように機種の方向と進行方向が合っていなくてもいいんです。横滑りして飛んでいても別にどうってことありません。むしろ普段は、風の影響でこういう飛び方をしています。風に逆らって横滑りしてやらないと行きたい方向に進めないからです。風はまっすぐ前からやってくるとは限りませんよね。横から吹いてきたらどんどん横に流されて行きます。ですので、飛行機は常に風の吹いてくる方向にやや機首を振って飛んでいます。片発のエンジンも同じ要領で、横滑りさせて飛んでいます。

今度は地上での直進の保ち方ですが、事故機は着陸時にちゃんと逆噴射をしていましたね。作動している右エンジンのみの逆噴射でした。飛行機は接地すると自動車と同じ2次元的な動きになりますので、横に倒れるような(旋回するような)運動はしなくなります。なのでエルロンは不要になり、垂直尾翼のラダーで方向をコントロールすることになります。

事故機は右エンジンだけで逆噴射をしたので、右だけブレーキが強いことになり、右に回ろうとする傾向が出ます。それを打ち消すために左にラダーを切って直進を保ちます。もう一つ、ブレーキの踏み具合でも方向をコントロールすることができます。右に回ろうとするならば左のブレーキを強く踏むのです。ただ、これは神業に近いと思いますので、実際に使われたかどうかはわかりません。

なお、速度が落ちるにつれて、空気から得られる力が減少するため、徐々にラダーが効かなくなります。垂直尾翼が失速するからです。そうなってくると、今度はラダーではなくステアリングホイール(操縦席の横に付く小さなハンドル)で前輪を回して方向をコントロールします。

以上、飛行機が片発でも直進できる仕組みです。正確には空中では直進していませんけどね。(機体の軸と進行方向は基本的に合わないです。)

左エンジン故障時は右旋回が安全か

事故機は離陸後すぐに左エンジンが故障し、旋回しにくい方向である「右旋回」をしました。また、燃料投棄のときの周回パターンも右旋回でした。

左エンジンが故障した際、旋回しにくい右旋回の方が安全ではないかという意見を頂いたのでネットで調べてみました。そしたら、その通り、故障したエンジンの方向に旋回するのは危険だという意見が出てきました。一方で一概には言えないという意見も見られました。一体どっちなんでしょうか?

左エンジンが故障した場合、放っておくと勝手に左旋回を始めるため、それを助長する方向に舵を切ると、やはり危険な気がします。うっかり深い旋回に入れてしまって、そのまま真っ逆さまにグルグルと落ちて行くことになるかも知れません。

これは程度問題だと思います。左旋回するときはむしろ左への傾きが大きくなるのを止めるように操縦するべきだと僕は考えます。一方の右旋回は、やはり絶対的に安全でしょうね。

ちなみに事故機は離陸後に右旋回しました。それは安全のためではなく、羽田空港の出発方式によるものです。空港には必ず出発方式というものが定められています。障害物等から安全を確保するため、騒音を極力回避するために、その経路が定められることが多いです。

事故機の滑走路は羽田空港の最も海側のため、離陸直後に海側(右側)に旋回する出発経路が定められています。左に旋回すると左の滑走路の飛行機と経路が重なったり、東京の街に騒音をまき散らすことになるからです。

また、燃料投棄時の旋回経路が右旋回だったのは、、、スイマセン、不明です。パイロットの判断なのか、ホールディング(旋回待機)経路がたまたま右旋回だったのか、関係者に聞いてみないことにはわかりません(泣)。

ちなみにですが、出火時の高度ではオートパイロット(自動操縦)が機体を旋回させていたはずです。従って、パイロットはエンジンの状況を確認することに集中できました。

離陸は手動で行いますが、基本的に浮揚した直後からオートパイロットを入れるため、パイロットは操縦に専念することなく、色々なトラブルに対処することができます。こういった省力化により、飛行機は安全になったと言えますが、自動操縦への不理解が事故につながった例も多くあるため、一概には言えない側面もあります。

どの飛行機でもルールは同じなのか

離陸時のルールや燃料投棄、トラブル対処の方法はどの飛行機でも同じなのか?と言うことですが、これは基本的に同じです。離陸決心速度(V1)を過ぎた後は、エンジンが故障しても離陸を続行しないといけません。フルサービスキャリアでもLCCでも同じです。飛行機の離着陸データは航空機メーカーから提供を受けていますので、航空会社はそれに従うだけです。

横風着陸時の風速基準など、航空会社によって異なるものもありますが、航空機メーカーの示す許容値を超えることはありません。逆に狭めることでより安全にしています。

燃料投棄が可能かどうかは機種によります。飛行機によっては燃料投棄をするノズルがない場合があります。離陸重量と着陸重量が同じであれば燃料投棄は不要、また、燃料投棄をせずとも上空で飛ぶことにより燃料を減らせるからです。

随分前の話ですが、ANAのプロペラ機(DHC-8-Q400)の前輪が出ず、高知空港に胴体着陸した事故がありました。Q400は燃料投棄ができないため、上空で燃料を使い果たして着陸に挑みました。緊急事態と言っても、前輪が出ない不具合の場合、飛行する上では全く問題がありませんので、悠長に(と言ったら変ですが)上空をグルグル回って降りてきました。これは火災時の影響を最小限に抑えるためです。

上空で回っている間の乗客の不安は耐えがたいものがあると思いますが、燃料投棄できない飛行機ならば仕方がないことだと諦めるしかないでしょう。ちなみにそのANA機は出火することなく、前部胴体を滑走路に擦りながらも無事に着陸しました。ギリギリまで前部胴体を滑走路に付けず、それでいて直進を完璧に保ったパイロットの操縦は本当に見事でした。

鳥衝突で両エンジン停止はもっと起きるはずでは

事故機はバードストライクではありませんでしたが、バードストライクは非常に多く発生しており、パイロットを常に悩ませています。空港では空砲を打って鳥を追いやったり、エンジンの中央に目玉に見える塗装を施したりして、鳥に衝突しないようにしているのですが、それでもバードストライクは起きてしまいます。

鳥の群れに突っ込んだ場合など、両方のエンジンに鳥を吸い込み両エンジンが停止してしまうことがあるんじゃないかと心配になりますよね。実際にそれは起きています。映画にもなりました。

flyfromrjgg.hatenablog.com

でもこのような事故はやはり稀です。

なぜならば、ある一定重量以下の鳥であれば、エンジンが停止しないように設計されているからです。小さなカモメ1匹くらいではエンジンは止まりません。実際に鳥をエンジンに打ち込んで試験を行っています。その試験をクリアしないと飛行機のエンジンとして世の中に出せません。大量の水や砂などを吸い込む試験もやっています。相当凄いものを吸い込まないとエンジンは止まらない設計になっているのです。

つまり、バードストライクをしたら必ずエンジンが止まるわけではないのです。ダメージは受けますが、火災が起こらない限り回したままにしておくことも可能ですよね。パイロットはエンジンを自ら両方止めることは絶対にしたくないはずなので、仮に両エンジンに鳥が衝突してエンジンが損傷しても、回っていれば片方だけは止めないという選択をすると思います。両エンジンへのバードストライクの確率と、バードストライクにより両エンジンが勝手に停止してしまう確率は別だと考えた方がよいでしょう。

なお、滑走路上に鳥の群れが見えたら離陸を停止することもあります。いなくなるまで待つこともあります。着陸をやり直すこともあります。パイロットは自分の眼でも鳥に衝突しないように気を配っているのです。

おわかり頂けましたでしょうか?

僕が受けた幾つかの質問に答えたつもりですが、理解してもらえたでしょうか?飛行機の運動を理解するところは少し難しかったですかね?

これを機に飛行機の仕組みや安全性への厳しい姿勢を理解してもらえたらこれほど嬉しいことはありません。「くどい」と言われてしまいそうですが、飛行機は安全な乗り物なので、どうか安心して乗って頂きたいと思います。

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