イケてる航空総合研究所

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ボーイングが描くバラ色の航空世界。コロナ後初の20年間需要予測"Commercial Market Outlook"を読み解く。

非常に意義深い長期予測

2020年10月初旬、ボーイングがコロナ後初の長期マーケット予測を出しました。民間機の今後20年の需要予測として毎年出しているヤツで、Commercial Market Outlookと呼ばれています。コロナ後の航空需要はなかなか読めず、IATAも四苦八苦している中で、世界の最大手であるボーイングがちゃんと需要予測をした、しかも20年という長期の予測をしたということ自体非常に意義深いです。

日本で例えるなら、各業界のトップ企業がコロナの影響を読み切れず期末の決算予想を延期する中、トヨタがちゃんと決算予想を発表したようなもので、業界トップのメーカーが需要を予測することは、下流の産業にとっても非常に大きな意味があります。

www.boeing.com

今回はこのマーケットアウトルックを手掛かりに、ボーイングはどんな未来を予測しているかを読み解いていきたいと思います。

いきなり度肝を抜かれたのがこのグラフ。


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RPK(有償旅客キロ)といって、どれだけのお客さん(人)をどれだけの距離(km)運んだかを掛け合わせた旅客需要の重要指標なんですが、すごい回復ぶりを予想しています。

RPK(Revenue Passenger Kilometer)は要するに航空業界の活性度というか成長度というか、そんなものを表していると思って頂ければいいと思います。飛行機に乗る人が増えればRPKが増えますし、移動距離が長くなってもRPKが増えます。コロナでは飛行機に乗る人が減ると同時に、長距離を飛ぶ国際線がほぼ消滅したので、その相乗効果でRPKは激減しました。航空業界が復活すると、その逆の動きが出てくるわけです。それがRPKだと思って下さい。

それで、再度上のグラフを見て頂きたいんですが、ボーイングはあと4~5年でコロナ前に戻るどころか、これまでのトレンド上に乗ると予想しています。

ちょっと無理し過ぎじゃないか?

というのが僕の率直な感想ですが、未来はどうなるかなんて誰にもわかりません。少なくともボーイングはバラ色の未来を予想していることがわかります。

誰だって商売をしていればバラ色の未来を予想しますよね。だって僕が仮にまんじゅう屋をやっていたとしたら、未来永劫、一日100個しか売れない予測なんてしないですから。来年には一日120個になり、20年後には一日500個売れるようになると、希望を込めて予測するじゃないですか。機体メーカーの需要予測なんてそんなものです。眉唾もんであっても構わないんです。(眉唾だと思うのは今が悲観的な時期だからかも知れません。)

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リプレイス需要が多めの予測

このマーケットアウトルック(市場予測)で最初に述べられているのは、今後の航空需要で注目されるのは新規需要(成長)分よりもリプレイス(買い替え)分であるということ。今、各エアラインは古い機体をどんどん退役させて行っていますが、今後もこの動きは続くと考えられます。

今はまだ買い替え需要は起きていませんが、需要が戻ってくると、足りない機体を買おうととする動きが現れます。それがこれ。


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縦軸の目盛りに注意する必要がありますが、一番左、昨年の20年予測ではリプレイス需要は44%と半分以下。そして真ん中と右が今年の予測でして、真ん中は今後10年間、右は今後20年間の予測値です。特に今後10年間ではリプレイス需要が56%と半数以上を占めていることがわかります。そして20年間でもリプレイス需要は昨年予測よりも4ポイント多くなっていることが読み取れます。

近い未来は、新たに需要が生まれて飛行機を買うのではなく、古い機体のリプレイス(買い替え)として機体を買うパターンが多くなるであろうことを示しています。各社、燃費の悪い(コストのかかる)経年機を退役させる動きが加速するのを需要予測に入れ込んだ形ですね。

ただ、リプレイス需要が強いと言っても56%。残りの44%は新規需要、つまり市場の成長分だと言っているわけで、リプレイスと新規需要のバランスは特に問題ないと思われます。

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長期的には昨年以上のレベル

僕が驚いたのはRPKのシャープな戻り以外に、長期予測を大きく変えていない点にあります。今年のグラフに去年分を書き込んだのが以下のグラフです。黒字で()して赤枠で囲ってあるのが去年の数字です。赤字のプラスマイナスが去年からの増減を表しています。(去年の予測グラフがどうしても探せなくて…。)


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今年の今後20年のトータルは43,110機(2020年-2039年の20年間)。昨年予測では44,040機(2019年-2038年の20年間)です。

(この数字は市場全体の機数予測であり、ボーイング機だけの機数予測ではありませんのでご注意下さい。)

さて、昨年に比べて930機少ないですが、これをどう見るかです。減っているから弱気になったと考えるべきでしょうか?

それは違うと思います。去年の予想はコロナの影響なしの状態です。しかし今年の予測はコロナ込み。なのに20年間で930機しか減っていないのはむしろ強気姿勢が強まったと見るべきでしょう。

ボーイングとエアバスは毎年それぞれが700機~800機ずつくらい売りますので、1年間全く飛行機が売れなかったら少なくとも1,500機くらいの蒸発になるわけです。しかしボーイングはコロナによる需要の蒸発が20年間で1,000機くらいで済むと言っているのです。今年の予測は昨年以上に強いものだということがお分かり頂けるかと思います。

ということで、数字の「減少」という部分に騙されることなく、ボーイングはかなり強気と見るのが妥当でしょう。

ただ一つ気になることは大型機が去年の予測よりも860機減っていること。これは全体として強気な中でも弱気な部分ですね。やはりコロナで大型機の需要が減った、特に超大型機であるA380や747が一斉に退役したことが影響していると思います。超大型機の需要またはそれに近い機体の需要は戻らないと判断した結果が、このマイナス860機の中身ではないでしょうか。

シングルアイル(単通路)機が若干減っているのは誤差の範囲と考えてもいいでしょう。リージョナル機が若干増えているのは、コロナで一時的に需要がやや小型にシフトし始めたかな?と思わせるところです。

ちなみに貨物機が減っているのは、旅客型の貨物機コンバート(P2F:Passenger to Freighter)が増える分を織り込んでいるものと思われます。

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敵は中国COMAC

このマーケットアウトルックには地域別の売上予想も載っています。前述の通り、機数はボーイング機の数だけではないところに注意して下さい。


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こちらを見ると強いのが3大地域、中国、米国、欧州です。それぞれの地域がほぼ20%ずつを持っています。各機体メーカーの戦略として、これらの市場でいかに多くのシェアを取るかがカギなわけですよ。

特に中国はこれからの米国にとっては試練の場所ですよね。まず米中貿易摩擦の問題でボーイングは不利。そして次に中国の国内航空産業の発展がボーイングのシェアを抑えにかかります。

中国ではCOMAC(中国商用飛機)という企業で737クラスと787クラスの、いわゆる売れ筋の2機種の開発を進めています。737クラスがC919という短通路機で、現在飛行試験中です。もう一つはロシアと共同でやろうとしているCR929です。後者のCR929の開発は微妙なんですが、前者のC919は要注意です。大化けする可能性をはらんでいます。

世界的な需要を取り込もうとするとFAAやEASAの型式証明がないと事実上ほぼどこの国も飛べないのが実情ですが、中国の国内線で飛ぶ分にはCAAC(中国民用航空局)の型式証明で十分なので、C919が本格的に、しかも国策として中国各社に導入されると、150人~180人乗りのボリュームゾーンを中国にごっそり持って行かれる可能性があります。20%というのは20年間で6,000機に相当しますので、仮にCOMACが中国のスタンダードになってしまうと、非常に大きな需要を取りこぼすことになります。

中国の需要の半分取れればエアバスと互角の勝負というところだったのがこれまでの世界だったんですが、これからは中国の機体とも張り合わないといけなくなりました。航空機の世界でも中国製品が今まさに生まれつつあり、それが今後の脅威となり得ます。

欧州市場ではエアバスが強く、米国ではさすがにボーイングが強いものの、例えば大手のデルタなんかはかなりエアバス寄りだったりもします。米国であろうともバイアメリカンで胡坐をかいてはいられない状況なんですよね。

これまで航空機メーカーと言えばボーイングとエアバスでシェアは半々というところだったんですが、ボーイングは737MAX問題とコロナで財政の危機ですし、それを尻目にエアバスがボーイングを追い越しています。さらにこれからは中国の時代が来るかも知れないと言うことで、強気予想のボーイングがどれだけのパイを奪えるか、かなり厳しい戦いが待っていると言えます。

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これは明るいニュースだ

先述の通り、ボーイングにとっては厳しい未来が待ち受けていると思うわけなんですが、航空機産業全体で、かつ20年という長期スパンで見てみると依然としてとても魅力的な市場に映るんですよ。航空業界は今、コロナによってかつてないくらい苦しめられているものの、20年後から今を見てみると「あの騒動はなんだったんだろう?」というくらいに霞んでいるものと思われます。

この予測が正しいとすれば、20年後には、ついこの前までのように、いやそれ以上に人々が飛行機で世界を飛び回る世界があるということ。今のような暗闇の中に生きていると、明るい未来なんて思い描けないんですが、機体メーカーの老舗であるボーイングはボーイングは明るい未来を当たり前のように予測しているんですよね。(ボーイング機が売れるかどうかは別ですが…。)

今回Boeingが出したのは航空業界は必ず回復するという強いメッセージです。「眉唾ものの予測」とか、「世界は既に変わった」とか、「飛行機が今後売れるわけがない」とか色々と否定的な意見はあるでしょうけれど、せっかくボーイングが出してくれた予想なので、ここは信じてみてはいかがでしょう。

僕はボーイングが示してくれた明るい未来を信じています。航空需要を盛り上げるために、自分のやれることを精一杯やって行きたいと思います。

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