イケてる航空総合研究所

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777-8Xの開発延期のニュースに潜む航空業界のパラダイムシフト

777-8X開発延期

またまたボーイング関連の悪いニュースが出ました。ついこの前、7月末には、777-9Xの初飛行がエンジンの問題で2019年末から2020年初頭に延期されるという発表が出たばかりですが、今度は777Xの短胴型-8Xの開発延期というニュースが出てきてしまいました。737MAXの事故が起きてから、ホントにいい話がないですね(涙)…。


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(Boeing HPより。手前が-9X、奥がー8X)

777-9XはANAも発注している現行777-300の後継機です。胴体径は現行777と同じですが、全長が77mと、現行777-300の73.9mよりも3mほど長くなっています。全幅も大幅に大きくなっているため、駐機時には翼が65m以内になり既存の空港施設に適合するように翼端が折れる仕組みになっています。下の写真に示す通り、それが誰でもわかる外見的な特徴でしょうか?


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(Wikipediaより)

今回話題の短胴型-8Xは、-9Xをまず作ってからということになっていました。しかし、その-8が開発延期。737MAXの運航停止が半年にも及ぶ中で、777Xはボーイングの「希望の星」的な存在だったんです。が、777Xにも障害続出かという印象です。また、Boeing797になると噂されているNMA(New Midsize Airplane)もローンチするのかしないのか全くわからないような状況で、ボーイングにとっては長い長いトンネルに入ってしまったかのようです。

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実は中東頼みの777-8X

何故777-8Xの開発が延期になったのか。それは明言はされていませんが、豪カンタスの動向や中東エアラインの動向が影響していると思われます。

実は777-8Xは中東御三家と呼ばれる、エミレーツ航空、エティハド航空、カタール航空の3社からしか発注が入っていません。そこへ豪カンタスから発注が入るかな?と思っていたところに開発延期のニュース。もしかしたら「カンタスへのプロモーションに失敗したから、開発を延期したのか?」なんて勘繰りを入れたくなってしまいます。

この短胴型-8Xに関しては、少し前、2019年の6月にエティハド航空がキャンセルするかもというニュースが流れました。まだキャンセルされてはいませんが、実は内定していて、そのことも延期になった大きな理由ではないかと僕は考えています。つまり、「-8Xは作っても売れないから、今は経営資源を別のところに振り向けよう」みたいな感じです。

777Xが中東頼みという件については、A380の開発中止のことが思い出されます。

flyfromrjgg.hatenablog.com

A380発注の約半分が中東エミレーツ。そのエミレーツが一部の発注をキャンセルしたことがきっかけとなりA380の生産が終了することになりました。中東頼みの危うさを如実に表した一件でした。

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なぜ大型機は売れなくなったのか

777は747の後継機とも言われ、はたまたA380の後継機にもなり得る新世代の大型機です。777-9Xには300機強の発注が入っていますが、実は半分程度がA380と同様エミレーツ航空からです。正直なところ、他の航空会社からの発注状況は芳しくありません。

航空需要は今後20年で年平均4%で伸びると言われているにも関わらず、大型機は小型機、中型機に比べて売れなくなってしまいました。機体が大きくなるにつれて買えるエアラインが少なくなるという事実はありますが、それにしても以前よりも大型機需要は相対的に減っているように感じます。

何故かと言うと、最も大きな要因は中型機でも遠くまで飛べるようになったからでしょう。昔は大型機、つまり燃料がたくさん積める飛行機ではないと遠くまで飛べませんでした。だから東京からニューヨークまで直行するためには747のような燃料がたくさん積めるような飛行機じゃないとダメだったんです。しかし787やA350の登場で大型機ではなくても長距離飛行ができるようになりました。

すると、これまで大都市間を大型機で飛ばしその先を小型機で飛ばすハブアンドスポークと呼ばれる方式が、都市と都市を直接結ぶポイントトゥポイントと呼ばれる方式に移ってきたんです。

例えば、東京からボストンに飛ぶにはニューヨークを経由しなければいけなかったのがこれまでの時代。それはボストンに直接747を飛ばすと飛行機が大き過ぎて採算が合わなかったからです。

しかし787という747よりも小さな飛行機、つまり需要と供給が吊りあう機体が747並みの航続距離を持つようになると、東京からボストンまでの路線を開設できるようになりました。こうしてポイントトゥポイント路線が増え、ハブアンドスポークのハブ間の需要は大きく増加しなくなったというわけです(今でもハブアンドスポークはもちろん機能していますが…。)。

また、中型機で大型機並みの距離が飛ばせるようになれば、中型機で本数を飛ばした方が利便性が高くなり、仮に需要が減った際にも路線を休止せずに済むというメリットがあります。A380で1日に1本飛ばすよりも787で2本飛ばした方が便利ですよね。そして減便もしやすいです。採算が取れない50%の搭乗率でA380を飛ばすより、787を2本から1本に減らし、満席で飛ばせば以前と同じように採算が取れるからです。

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なぜ短胴型は売れないのか

ここで渦中の-8Xに目を向けると、短胴型の-8Xはもっと売れていません。これの理由は、単純に短胴型は1人当たりの運航コストが高く付くからです。

若干例えが悪いかも知れませんが、このことはLCCで考えるとわかり易いです。LCCでは胴体を伸ばしているわけではありませんが、シートピッチを狭くし、座席数を増やすことで1人当たりの運航コストを下げています。長胴型でも同じことが言えるのです。ほぼ運航コストの同じ機体であれば座席数が多い方が一人当たりのコストを安くすることができます。

また、大は小を兼ねるため、長胴型を持っていれば需要の幅(増減)に柔軟に対応できるというメリットもあります。しかし短胴型を買ってしまうと乗客が増えた場合に対応できません。エアラインにとって長胴型は需給の柔軟性の面で好都合なのです。

ボーイング機に限らず最近のエアバス機でも同じことが起きています。A330neoの-900と-800を比べるとまさに777Xと同じです。長胴型の-900がよく売れ、短胴型の-800はクウェート航空くらいにしか売れていません。A350でも短胴型の800は開発中止になりました。(A350-800はA330neoと重複するためという理由が大きいですが。)

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短胴型を買うのは特殊な顧客

じゃあどうして短胴型が存在するのかって?それは乗客数を犠牲にしてでも航続距離が欲しい熱狂的な顧客がいるからです。

昔から航続距離を稼ぎ出すために胴体を短くするのは航空機の常識でした。古くは747SPという短胴型の747がありますが、胴体を短くすることで重量を軽くして通常の747では飛べなかった距離を飛ばせるように工夫しました。トライスターでも100型では足が足りない顧客が短い500型を買っています。737でも一番飛べるヤツは長い-800ではなく短い-700です。(正確には700ER)

つまり、短胴型を好んで買う顧客はどうしてもその航続距離が欲しいから買うだけなんですよ。「あとプラス500マイルないと狙うところに飛ばせない」というように、航続距離によほどシビアではなければ、あえて一人当たりの運航コストの高い短胴型は買いません。元々短胴型は非常に特殊なマーケットを狙って作られる傾向にあります。

その際たる例が、カンタスの狙うシドニー=ロンドン。シドニー=ニューヨークも同じですね。オーストラリアはどこへ飛ぶにも遠いため、カンタスは特殊なマーケットを持つエアラインの筆頭格です。ただ、そこに777-8Xが食い込めたのかというと、ダメだった可能性が高いです。それが開発延期の一つの要因のような気がします。

長胴型に燃料タンク増設が流行り

ならばカンタスは何を買うのか。エアバスが提案していると噂されているのがA350-1000のULR(Ultra Long Range)です。900ULRをシンガポール航空が買って、シンガポール=ニューヨーク等の超長距離路線に飛ばしていますが、今度はそれの長胴型1000バージョンです。

先ほど、乗客数を犠牲にしてでも航続距離が欲しいと書きましたが、最近では乗客数を犠牲にしないで航続距離を稼げるオプションを航空機メーカーは用意するようになりました。それがA350のULRであり、小型機で言えばA321LR(Long Range)やXLR(eXtra-Long Range)です。エアバスは床下貨物室の一部を燃料タンクにして、増える重量により脚や翼の構造を強化して、エアラインのニーズに合った航空機を提供しようとしています。

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だから今回もエアバスがカンタスに対しA350-1000ULRを提案したため、777-8Xよりも魅力的な航空機となり、結果777-8Xが競争に負けたという噂も立っています。今や航続距離を稼ぐには、短胴化するのではなく長胴型への燃料タンク増設が常識。そこに後れを取っているのがボーイングである気がしてなりません。

パラダイムシフト

777-8Xの開発延期について、まだ真相はわかっていませんが、ボーイングの苦境に対してエアバスがガンガンに攻めている様子だけは伝わってきますね。

開発延期が開発中止に繋がるのか、はたまた-8Xをカンタスが買うことになり、他のエアラインからも受注が入って見事に開発計画は復活を遂げるのか、恐らくここ1年くらいの勝負になるでしょう。

今回は777-8Xの開発延期のニュースをちょっと掘り下げてみましたが、A380の生産中止と合わせて、この件は大型機を巡る航空業界のパラダイムシフトを感じるものだと僕は考えています。大型機って夢があって、格好良くて好きなんですが、近視眼的に見るとちょっと(販売の)雲行きが怪しい気もしてきます。

はたまた、昨今のパイロット不足により小型機の多頻度運航が限界を迎え、航空需要の増加に応えるには大型機を飛ばすしかなくなる時代が来るような気もしています。

今後、航空業界はどっちに転んでいくんでしょう?そんな問題提起をして今回は終わりたいと思います(笑)。

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